― フィリピン株式譲渡における実務上の落とし穴 ―
株式譲渡の際、現在は Bureau of Internal Revenue(BIR)が運用するオンラインシステムeONETT(Electronic One-Time Transaction)を通じて申請を行う必要があります。
しかしこのシステムはかなり不親切な作りになっているので、地雷を踏まないように備忘録を残します。
納税期限とBIR審査のタイムラグに注意
Deed of Sale(株式譲渡契約書)を公証(Notarize)すると、その公証日を起点として以下の納税期限がカウントされます。
* DST(Documentary Stamp Tax:0.75%)
* CGT(Capital Gains Tax:15%)
* Donor’s Tax(6%)
しかしながら、書類をオンライン提出しても、BIRはすぐには審査しません。
放置していると、審査待ちの間に納税期限が経過してしまうことがほとんどです。というよりも、期限が過ぎるまで審査を意図的にしていないのではないかと思われます。
DSTは少額で済むことが多いですが、CGT(15%)やDonor’s Tax(6%)は取引額によってはかなりの金額になります。
対策:
オンライン提出後は、BIR窓口へ出向き「審査してほしい」と依頼することを強く推奨します。
Donor’s Taxの25万ペソ控除は自動ではない
Donor’s TaxにはPHP 250,000の控除枠があります。
しかし、自分で入力しなければ適用されません。
入力を忘れたらそれで終了です。
後から自動的に調整されることはありません。
Property Informationは「古い株券」の情報を入力する
入力画面の上から2番目にあるProperty Informationセクション。
ここで入力するのは新しい株券の情報ではなく、旧株券(キャンセルされる株券)の情報です。
さらに厄介なのが、株券の移転が1対1対応でないケースです。
例
* 株券1:100株
* 株券2:200株
これを
* 新株主A:150株
* 新株主B:150株
に分ける場合。
このときは、
株券2(200株)を仮想的に「50株」と「150株」に仮想的に分割して入力する必要があります。
入力画面では:
* 株券1(100株)
* 株券2(50株)
のように入力し、合計が新株主に移転する株数と一致するよう調整しなければなりません。
この仕様を知らないと、確実に混乱します。私はこれがわからず、かなり悩みました。
「for TAX payer’s compliance」状態の罠
書類提出後、不備があるとBIRからコメントが付き、ステータスが「for TAX payer’s compliance」に変更されます。
この時点で数値の修正は可能です。
しかし最大の問題は:
「SAVE」ボタンが存在しない
「SUBMIT」しかない
ということです。
一度SUBMITすると、再編集は一切不可です。
たとえば、
* Donor’s Taxの25万ペソ控除を入れ忘れた
* 取得単価を間違えた
と気づいても、修正はできません。
修正するには、なんと、申請をCancelし、最初から全部やり直すしかありません。
SUBMITを押してから、数分とか数時間のうちならCANCELできますが、BIR担当者が次の段階へ進めてしまうと、それもできません。
期限超過しそうな場合の実務的対応
BIR審査待ちの間に納税期限が過ぎそうな場合、
- 申請そのものをCANCEL
- Deed of Saleを再度Notarize(新しい日付にしてしまう)
- 再申請
という方法が実務上使われています。
ペナルティが巨額になる可能性がある場合は、この方法を検討する余地があります。
アップロードする株券は「旧株券」
アップロードするのは、旧株券(キャンセルされるもの)です。
新しい株券は、一切、登場しません。番号入力もありません。
つい1,2年前までは、「新しい株券」を求められたのですが、運用が変わりました。ここも誤解しやすいポイントです。
まとめ:eONETTは「一発勝負」
eONETTの最大の特徴は、
- 審査を待っているとペナルティが確定する。そのまま承認されると撤回もできない。
- 指摘が来た後は、SAVEできない。SUBMITを押したらそれで終わり。
- 「古い株券」とは一言も書いていないので、何を入力するのか混乱する。
- 「古い株券」をアップロードするので、10年も前の株券を再作成するような場合、当時のCorporate SecretaryとPresidentを探して署名してもらう必要があり、ここで詰む可能性がある。
という点です。
1対1売買なら簡単なのですが、複数の株券VS複数の株券というような場合は、それぞれの取得時期、取得コスト、株券番号、所有者の住所、TIN番号、当時のCorp Sec、Presidentなど大変神経を使うので、しっかり図解などをしてまとめることが重要です。
フィリピンの税務実務は「制度」よりも「運用理解」が重要。
eONETTはその典型例と言えるでしょう。