労働法
- 労働法83条 労働時間。通常の勤務時間は1日8時間を超えてはならない。
- 労働法85条 食事 最低1時間の食事時間(タイムカードは止まる)を含めること。5〜20分間のブレイクタイムは勤務時間に含む(タイムカードは止まらず)。
- 労働法86条 夜間手当 夜10時から朝6時までは10%割り増し。Night Differential。略してNDエヌディー。
- 労働法87条 残業手当 8時間を超えたら25%増し。Holiday / Rest Dayの8時間超え部分は30%増し。
- 8時間を超えたら残業代。25%割増し。夜10時以降は深夜手当10%割増し。かけ算でかかってくるから、残業かつ夜10時以降なら37.5%の割増し。
- 労働法88条 アンダータイムは残業時間との相殺禁止。残業手当の方が、単価が25%高いから、相殺したら労働者の方が損をしてしまうため。
- 労働法91条a 6日連続勤務したら、最低24時間の休みを与えること。7日連続の労働を強制してはいけません。
- 労働法91条b 各人のRest Dayを決めること。Rest Dayというの、その従業員にとっての定休日。自分の都合にあわせて、休息日をコロコロ変えたりしてはいけません。運転手にもちゃんと休みの日をきめてあげましょう。定休日がなければ給与計算をするときにも困ります。
- 労働法93条a Rest Dayの勤務は30%増し。8時間を超えたら、3割増しの3割増し。夜10時を過ぎたら、さらに1割増し。
- 労働法93条b Rest Dayが不定の従業員は、Holiday / Sundayが割り増し。
- 労働法93条c Special Holidayの勤務は30%増し。Special Holidayと彼のRest Dayがたまたま重なった場合は50%増し。
- 労働法94条a Regular Holidayは働かなくても支給。但し10人以下の小売り・サービス系を除く。
- 労働法94条b Regular Holidayに働いた場合は200%。
- 労働法94条c Holidayとはあらかじめ決まっている国民の祝日のこと。
- 労働法95条 1年働いたら最低5日の有給を付与すること。「正社員になったら」ではありません。使い切らなかった法定の有給は、会社が買い取ること。
- 労働法96条 サービスチャージを集める場合はそのうち85%を均等に分配。15%は管理職へ。
- 労働法99条 最低賃金。マカティは491ペソ。15人以下の小売り・サービス、10人以下の製造業は454ペソ。
- 労働法102条 給与は金で払うこと。自社の商品を配って、「給料のかわり」というのは不可。
- 労働法103条 支払いは2週間ごと、もしくは月2回。ただし16日を超えないこと。
- 労働法112条 給与の使用目的を限定してはならない。給料の一部を使って、会社の品物の購入を強制してはいけない。
- 労働法114条 会社の器材の紛失、損害を補うために、従業員から保証金を集め、差し引くことは禁止。
- 労働法115条 前条の差し引きは、ヒアリングを行い従業員の責任が明らかであり場合に限り可。
- 労働法133条 出産前2週間、出産後4週間は有給を与えること。延長も許可すること(但し無給)
- 労働法136条 未婚を雇用の条件にしてはならない。
- 労働法281条 試用期間は6ヶ月を超えてはならない。超えた場合は正社員になったとみなす。
- 労働法282条a 雇用者側から解雇できるケース1 従業員が重大な不正、故意の不服従
- 労働法282条b 雇用者側から解雇できるケース2 著しく習慣的な怠慢
- 労働法282条c 雇用者側から解雇できるケース3 詐欺、故意の違反
- 労働法282条d 雇用者側から解雇できるケース4 雇用者や他の従業員に対する犯罪行為
- 労働法282条e 雇用者側から解雇できるケース5 その他前項に類似した事項
- 労働法283条 事業閉鎖または人員削減の場合は、1ヶ月前告知
- 労働法283条 機械導入などによる人員削減の場合は、1年勤務につき退職金1ヶ月分。但し最低1ヶ月分。
- 労働法283条 これ以上の損失を防ぐための閉鎖、縮小に伴う人員削減の場合は、1年勤務につき退職金0.5ヶ月分。但し最低1ヶ月分。いずれの場合も1年未満の端数は1年に切り上げて計算。
- 労働法284条 病気の場合、解雇可。1年勤務につき退職金0.5ヶ月分。但し最低1ヶ月分の退職金。1年未満の端数は1年に切り上げて計算。
- 労働法285条a 従業員による退職は、1ヶ月前告知。
- 労働法287条 定年退職は60歳。5年以上勤務の者は退職金を1年勤務につき退職金0.5ヶ月分。但し最低1ヶ月分の退職金。1年未満の端数は1年に切り上げて計算。※10人以下の小売り・サービス業には適用せず。
労働争議を防ぐコツ
- 労働法をよく読み、労働者の権利を侵してはなりません。労働法を無視するなどの冒険は絶対にしないことです。
- 基本給などの保証された部分をペナルティと称して減らしてはいけません。これは違法だし、抵抗が大きいです。侵してはならない部分には、手をつけないことです。
- どんなにだめな社員でも、人として扱うことです。経営者自身が本人と直面し、きちんと話をしてください。
- 感情を抑えることです。血気盛んな30歳前後の頃は難しいかもしれませんが、日本にいるときよりも、怒りの感情を抑える訓練をする必要があります。
- 落ち着いて手順を踏むことです。手順を知っている経営者には、従業員は絶対に戦いを挑んできません。
- レターを書いてくれる人を見つけましょう。レターという文化は、海外では必須です。社員との正式なコミュニケーションは、レターのみであり、フェイスブックや携帯メッセージなどで警告などを送ってはいけません。
今はAIを使えば簡単に英文を書けますので、普段から言いたいことをレターに書く習慣をみにつけましょう。 - 業務上の失敗にペナルティを課してはいけません。人間にはエラーはつきものです。故意ではない失敗を罰すると、社員も萎縮するし、争っても勝てません。
- 日頃からコミュニケーションをとり、ガス抜きをすることです。不満が大きくなる前に、聞いてあげることです。定期的な1対1の面接は一番効果的です。
- 全員での食事会やアウティングをどれだけ頻繁に開催しても、社員は本心は話しませんから、やはり面接は一番効果的でしょう。
解雇と停職の手順
- 一方的にレターを渡して「あなたは停職」「あなたは解雇」ということはできません。必ず、必要な手順を踏むことです。この手順をDue Processと呼びます。この言葉は覚えてください。
- NOTICE & HEARINGという言葉も覚えておきましょう。文書で警告し、文書で弁解を聞く。これで1セットのコミュニケーションです。会社側から一方的に警告書を送るだけ、通知を送るだけ、ではコミュニケーションが成立していませんので、不可です。
- 社員を解雇したいと思ったら、NOTICE & HEARINGを繰り返すことで、最初は警告、次に停職、そして解雇というように、絞首刑の階段を上らせるように攻めていきます。
- 最初は警告、次に停職ですが、ほとんどの場合、ここで相手から辞表が出てきます。解雇に至る前に、消えてしまうのです。お互いその方がハッピーエンドです。
- ついカッとなって「お前はクビだーーっ」とかやってしまいそうですが、「切りたい時ほど慎重に」が基本です。まずは落ち着きましょう。
- 手順を踏まずに解雇すると、100%労働局に駆け込まれます。仕事なんて手につかないくらい不愉快な思いをしますので、時間はかかっても手順を守って解雇した方が得策です。
- 社員に警告書を出したいと思ったら、社長が正面に出て、率直に感情を伝えることが重要です。社長が怖がって、誰かに任せると事態を悪化させるだけです。特にローカルマネジャーに任せても事態は良くなりません。
- 自主退職と、解雇では全く意味が異なります。解雇の場合は、会社に悪い記録が残るし、周りからも「あいつは解雇された」とレッテルを貼られます。解雇直前に円満自主退社しておけば、みなハッピーなままとなります。
- 従業員と揉め事になったとき、「こっちには強い弁護士がいるぞ」とすごんでも、相手がビビったりすることはありません。逆に恥ずかしいだけですので、言わないほうがよいでしょう。
- きちんとした弁護士ほど、もめ事は扱いたがりません。面倒な割には、儲からないからです。ランクが落ちても血気盛んな弁護士の方が、役に立つことが多いかもしれません。
- 社員というのは、普段から会社や社長の弱みを探っています。「解雇」を言い渡した瞬間に、その社員からの脅しが始まります。普段から、従業員に知られてはならない秘密は絶対に開示してはなりません。
- ビザを取得しないまま社長が働いていたり、経理上の不正などは、従業員が一番喜ぶ「弱み」です。
就業規則
- 書かなくて良いことは書かない方がよいです。毎年3月1日に昇級します、なんて書いてしまうと、全員を昇給させなくてはなりません。アップが少なかった子は辞めてしまうでしょう。
- 一度記載した労働条件は、変更が困難です。最初が全てということです。就業規則を配布する前に、ベテランによく見てもらいましょう。
- 社内規定に書いたら最後と思った方が良いです。手当などを記載するときは、本当にそれを何年も続けられるのかを、慎重に考えてください。
- 「マイルールをいっぱい作った。従業員を署名をもらったから大丈夫。」というのは大間違いです。常に法律が優先です。日本人は、マイルールを作りたがる傾向があるので、特に注意です。作っても構いませんが、争えば負けます。
- どういう違反を何回したらどうなる(停職、解雇)か、は必ず記載しておきましょう。必ずしも、その通りにできるとは限らないが、書いておいたために、救われることも多々あるでしょう。
- 規則は厳しく、運用は緩やかに。が基本です。
その他基礎知識
- マニラの最低賃金は491ペソです。地域によって違います。
- 給料は月に2回以上支給だ。法律で「16日以上間隔をあけるな」と定められています。世界的には、日本のように月1回のみ支給するのは珍しいようですね。
- 最低賃金で働く人は、所得税が免除です。それより1ペソでも多い設定にすると、所得税がかかります。つまり、最低賃金から500ペソだけアップさせると、税金がかかり、手取りは最低賃金よりも少なくなるということです。
- Regular Holidayというのは「祝祭日」、non working dayというのは「降って湧いた日曜日」みたいなものです。この言葉は、覚えておきましょう。給与計算の係数が変わるから要注意です。
- 休息日に出社させると係数130%です。休息日というのは、従業員ごとに定めた「休み」の日です。休息日=祝祭日ではありません。
- 給料を計算する方法には、日給月給で積み上げていく方法と、月給で固定で計算する方法と2通りあります。祝日の計算方法が異なるので、この2つを混同してはいけません。
- 飲食店の店員は、日給月給がほとんどです。オフィス系は月給固定が普通です。
- 日給月給制の場合、Regular Holidayは、出勤しなくてもその日の給与を払わなくてはならない。もし、Regular Holidayに働いたら、200%払いとなります。
- 月給固定の場合は、Regular Holidayの分は、月給に含まれていると考えるから、休んだ場合、変化はありません。働いたら100%支給のみでよいでしょう。
- たまに4連休とかありますが、どの日がどのタイプの休日なのかで、計算方法が変わってきます。最初の2日がRegular Holiday、3日目がSpecial Non- working day、4日目がただの日曜日、のようになります。休日出勤をさせるときは、なるべく係数の低い日に出社させるようにしましょう。
- 有給休暇は1年につき最低5日。フィリピン人社員の中には、「法律では10日です」「マカティの決まりは15日です」とか言ってくる人がいるが、信じてはいけません。
- 法定の有給休暇は、1年につき5日ですが、実際には10日から15日くらいを付与する会社が多いです。できたての会社だと、ついつい社員を集めようと思って、休日を多く設定てしまいがちですが、後に変更できませんので、気をつけましょう。
- 有給は、付与すれば付与するだけ、ほとんどの社員が完全に使い切ります。
- 有給は3種類に分けることが多いです。①Sick Leave(病気のときに使う)②Vacation Leave(遊びに使う)③Emergency Leave(緊急用)。それぞれに、会社ごとにいろいろルールを付加します。
- その①Sick Leave。病気にしか使えない。医者の診断書を出させるのが一般的。しかし、具合が悪いからといって医者に行くとも限らないし、いちいち診断書ってのも難しいですね。
- その②Vacation Leave。理由不問。使うには上司の許可を必要とするのが一般的。
- その③Emergency Leave。緊急用。当日連絡で行使可。このEmergency Leaveというのは、最近はあんまり聞かれなくなりました。
- 有給をあげるときは、その有給が、すでに働いた1年間に対しての確定した有給なのか、これから働く1年間に対してみなしで付与した有給なのかを決めておく必要があります。確定した有給なら、1月になって全ての有給を消化してから退職しても良いことになります。
- 社員は有給を消化する権利があり、同時に、業務を完了しなければならない義務もあります。この権利と義務のせめぎあいは、解決が困難です。とても忙しい時に、「今日休みまーす」と言ってくるので、こういうときのために、別のアメとムチを用意しておいた方が良いでしょう。
- 税務からみた、社員の給与の構成は、課税+非課税。非課税部分をもっと細かくすると、(デミニミス+90,000)となる。デミニミスというのは、フィリピンで認められている数少ない、非課税手当のことです。交通費手当というものは、この国にはありません。
- 非課税で何か手当をあげたい、と思ったら、デミニミス手当のうちの何かをあげるか、年間90,000まで認められた非課税枠を使うしかありません。そこからはみ出た分は、すべて課税です。
- デミニミス手当の詳細。①有給売却分10日まで②医療125/月③ライス1,500/月④ユニフォーム 4,000/年⑤医療 10,000/年⑥ランドリー300/月⑦賞10,000/年⑧Xmas Gift 5,000/年⑨慶弔⑩食事手当:最低賃金の25%/日。月に2,500くらいがデミニミスの目安です。
- 社員には給料として、年間90,000は非課税で支給することができるが、法定の13ヶ月ボーナスはこの90,000枠に入り込んできます。13ヶ月ボーナスで20,000の見込みなら、使える非課税枠は70,000ということになります。
- フィリピンは出生率が高く、出産で会社を休む社員がたくさんいます。その場合、SSSから休業中の給与が出るが、SSSはすぐには払ってくれません。まずは会社が従業員に払ってあげて、何ヶ月か後にSSSから会社へ振り込まれるのを待ちます。
- 出産の場合、SSSから支給されるのは、自然分娩で60日、帝王切開で78日分の給与と決められています。それ以上に延びた場合は、お金をもらえません。ちなみに、フィリピンは帝王切開ばかりです。
- 自然分娩で60日、帝王切開で78日分の保障がSSSから支給される。雇用者はこれを立替えて本人に渡し、後日SSSから支払いを受けます。決して会社が負担しているわけではありません。
- 出産時のベネフィットをSSSから受けるには、出産の月までの18ヶ月間に連続3ヶ月以上のSSSへの支払いがあることが条件です。
- 試用期間は6ヶ月です。その期間中なら、割と簡単に解雇できます。といっても、即日解雇をしてよいというわけではなく、少なくとも2週間前に告知をすること。
- ですので、6ヶ月目の末日に、「正社員にしません」という通知をしたら訴えられてしまいます。5ヶ月目の末日には、正社員にするかどうかを決めて、少なくとも2週間の告知期間を設けましょう。
- 社員を雇ったら、採用した日から数えて、5ヶ月目の末日に、グーグルカレンダーにリマインダーをセットしておきましょう。その日が来たら、正社員にするかどうかを決めます。事務員に任せておいてもいいが、事務員がうっかりして6ヶ月たってしまたら、問答無用に正社員となります。
- 試用期間の社員と、正社員の違いは、試用期間の社員は解雇しやすい。有給休暇がない。ただ、それだけです。
- 13ヶ月法 12月24日までに「その年に払った基本給の1/12」を払え。「実際に払った基本給」なので、産休で給与が無かった場合は、その分が減ることになります。
- フィリピン人は労働者の権利をキッチリ主張してきます。日本のブラック企業みたいなやり方はできません。
- フィリピンではサービス残業をさせるのは、不可能です。ブラックな会社はあきらめましょう。
- そして、フィリピンの労働者は割と簡単に労働局へ駆け込みます。泣き寝入りをすることはまずありません。労働法はキッチリと守りましょう。
- 従業員が加入しなければならない社会保障は①SSS②PhilHealth③PagIbigの3つです。毎月天引きして、毎月納めるだけなのですが、実際の事務作業は煩雑です。
- SSS、PhilHealth、PagIbigに持って行く金を現金で渡してはいけません。不正誘発率が100%です。フィリピンの古典的な不正手段なのですが、それでもいまだに騙される日本人がいるのは不思議なことです。※現在では現金納付はできず、オンライン納付のみです。
- SSS、PhilHealth、PagIbigは、従業員が不正をすることも多いが、会社側が不正をすることも多いです。徴収して納めない、という方法です。フィリピン人もこれを知っているので、自分のSSSがきちんと払われているかどうか、常に気にしています。
- ざっくり言って①SSSは病気欠勤の給与保証と治療代②PhilHealthは入院代③PagIbigは住宅取得の補助です。
- 社会保障費は、月給20,000ペソの社員なら、会社負担分はは全部で1,600ペソくらい、従業員負担が1,000ペソくらいです。日本のように高額ではありません。
- 従業員は①SSS②PhilHealth③PagIbigからローンをすることができます。ローンの申し込み、徴収、支払いは全て会社がやらなければなりません。こういった事務の手間は膨大です。
- 不正を誘発する3大要素は①機会②動機③正当化。動機と正当化は、フィリピン人を雇う以上避けられないから、①の不正を誘発する環境に留意するしかないでしょう。
- 従業員からの天引き項目は多いです。所得税、SSS、PhilHealth、PagIbigとそれぞれからのローン。さらに社内ローン。最大8項目だ。従業員が20人もいれば、BS勘定が合うわけがない。ま、あまり深く考えずに、だいたいでやりましょう。