2025年3月に公布された Revenue Regulations (RR) No. 3-2025 により、
海外のデジタルサービス提供者(Digital Service Provider, DSP)に対する
フィリピンでのVAT(付加価値税)の取扱いが大きく整理されました。
本記事では、フィリピン法人や個人事業者が、海外のサービス(SaaS等)を利用する際に、
どちらがVATを納税する義務を負うのか を、A社の事例をもとにわかりやすく解説します。
1. RR 3-2025 Sec. 6(B)(1) の対象範囲
RR No. 3-2025 の Section 6(B)(1) は、
「非居住のVAT登録済みDSPとのB2B取引」 に関する規定です。
つまり、すでにBIR(フィリピン国税局)にVAT登録している海外事業者が
フィリピン企業にデジタルサービスを提供する場合のルールです。
2. A社がまだVAT登録していない場合
A社が現時点でBIRにVAT登録していない場合、
VATを課す権利はありません。
したがって、A社が発行する請求書(たとえば JPY10,000)は、
VATを含まない金額(exclusive of VAT) です。
この請求書を見て、顧客が「10,000円の中にVATが含まれている」と解釈して
1,071円を源泉して差し引くのは誤りです。
正しい処理は次のとおりです:
- 顧客は、A社に JPY10,000 全額を支払う
- 顧客自身が JPY1,200(相当)を Form 1600-VT でBIRに納付する
これは「Reverse Charge VAT(輸入サービス課税)」の仕組みで、
VATの納税義務は購入者側にあります。
3. A社がVAT登録した後の取扱い
A社がBIRにVAT登録を済ませた場合、
A社は「VAT登録済み非居住DSP」として次のように請求書を発行できます。
JPY10,000 + VAT (12%) = JPY11,200
この場合、VATの納税義務はA社にあります。
A社は四半期ごとにBIRの VDSポータル から申告・納付を行います。
顧客は JPY11,200 を満額支払い、
A社はそのうちの12%をBIRに納税します。
4. 顧客が「VAT分を源泉して納付したい」と主張する場合(銀行振込)
実務上、クレジットカード決済が一般的な海外DSPと異なり、
A社の取引は銀行振込です。
したがって、顧客が「自分でVATを源泉して納付したい」と主張することが可能です。
このような場合、A社は次のように対応します:
- 顧客がVAT相当分を差し引いて支払いをしても、A社はそのまま受領する。
- 顧客から Form 1600-VTの納税証憑(filed copyまたはpayment confirmation) を受け取る。
- 同額のVATについて、A社は 自社で再度納付しない(二重納税を防止)。
このように、顧客が源泉納付した分はA社側で納税済みとみなされます。
5. 実務整理(まとめ)
| 状況 | VATの納税者 | A社の請求書 | 顧客の処理 |
|---|---|---|---|
| VAT未登録 | 顧客(Reverse Charge) | JPY10,000(VATなし) | Form1600-VTで1,200納付 |
| VAT登録済(通常) | A社(Direct Charge) | JPY10,000 + VAT1,200 | JPY11,200全額支払い |
| VAT登録済(顧客が源泉主張) | 顧客 | JPY10,000 + VAT1,200(表示) | 10,000支払い+VAT1,200納付+証憑提出 |
6. 経理実務の観点から
顧客ごとにVAT処理が異なると、経理が複雑になります。
したがって、A社としては基本方針として次のようにするのが最もシンプルです。
「VAT登録後は、請求書に12%VATを加算し、A社がBIRへ納税する」
(ただし、顧客が源泉納付した場合は、納税証憑を受領し、重複納税を回避)
7. まとめ
VAT未登録時は 顧客が納税(Reverse Charge)
- VAT登録後は A社が納税(Direct Charge)
- 顧客が源泉した場合は 納税証憑を受領して二重納税を防ぐ
RR 3-2025 の文言は一見わかりにくいですが、
現場レベルでは上記のように整理しておくとトラブルを防ぎやすくなります。