フィリピンの会社では、「取締役は最低1株を保有していなければならない」と法律で定められています。
そのため、実際の経営に関与しないnominee director(名義取締役)にも、形式的に1株を割り当てるケースが一般的です。
では、旧nominee-Aから新nominee-Bへ、その1株を移動する場合、BIRのeCAR(Certificate Authorizing Registration) は必要なのでしょうか?
結論:法律上は「必要」、実務上は「省略されることが多い」
この1株の移動も、法律上はれっきとした株式譲渡(transfer of ownership)です。
したがって、原則的には eCARの取得が必要 です。
しかし、1株の名義変更に伴う金額は極めて小さいため(例えば₱100の株価)、
実務上はeCARを省略し、社内記録だけ変更している会社がほとんどです。
税務署(BIR)も、これを問題視して課税することはほとんどありません。
法律上の根拠
◾ Revised Corporation Code(会社法)
“Every director must own at least one (1) share of the capital stock of the corporation, which shall stand in his name on the books of the corporation.”
取締役は最低1株を自己名義で保有しなければならない。
したがって、その1株をAからBに移動するには、会社の株主名簿(Stock and Transfer Book, STB) 上で名義を変更する必要があります。
◾ 税法(BIR Revenue Regulations No. 6-2008)
“No transfer of shares shall be recorded in the books of any corporation unless the Certificate Authorizing Registration (CAR) is presented.”
株式の譲渡を会社の帳簿に記載(STB転記)するには、BIR発行のeCAR が必要とされています。
税務上の扱い
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 株数 | 1株(名義上) |
| 課税対象 | Capital Gains Tax(譲渡益の15%)+DST(額面の₱1.50/₱200) |
| 実際の税額 | 簿価で譲渡ならCGT₱0+DST₱0.75(非常に少額) |
実務での対応パターン
| 方法 | 内容 | 現場での頻度 |
|---|---|---|
| ✅ 正規ルート | Deed of Sale作成 → CGT・DST納税 → eCAR取得 → STB記入 | 少数(監査対応法人など) |
| ⚙️ 簡易ルート | 社内でSTB名義だけ変更(eCAR未取得) | 一般的(中小企業の大多数) |
実務上は「形式上の1株」であるため、BIRも課税目的の取引とはみなさず、未申告でも実害が発生しないのが現状です。
まとめ
- 法的にはeCARが必要(税法上の義務)
- 実務では省略されるのが普通(少額・形式的取引)
- STB(株主名簿)の名義変更は必ず行うこと
将来的にM&Aや株式譲渡、監査などが想定される会社では、
後々のトレーサビリティのために 1株でも正式なeCARを取得しておく方が安全です。
しかし、日常的な役員交代レベルであれば、
STB上の名義変更+Board Resolutionの記録のみでも実務上は十分といえます。