eCAR手続きと株券の関係
フィリピンでは、株式を譲渡する際に BIR(内国歳入庁) から発行される eCAR(Electronic Certificate Authorizing Registration) が必要となります。
eCARは、株式譲渡に関する キャピタルゲイン税(CGT) や 印紙税(DST) が正しく納税されたことを証明する「税務上のクリアランス証明書」です。
このeCARが発行されて初めて、会社側(Corporate Secretary)は新しい株主名義で株券を発行することができます。
eCARの本当の意味とは
eCARの本質的な意義は、「第3者に対して株式の譲渡が税法上、適法に行われたことを公的に裏付ける証明」 にあります。
「この譲渡は税務上も正式に承認されており、第三者(銀行・監査人・投資家・政府機関等)にも主張できる」
という公的な対抗要件を満たすための書類です。
逆に、eCARがないまま株式譲渡を行った場合、
- BIRにより未納税と見なされるリスク
- 銀行や第3者から所有権を否定されるリスク
が残ります。
したがって、Deed of SaleとSTB記録で譲渡は成立していても、eCARがなければ公的裏付けがない状態になります。
この意味で、eCARは**第三者への対抗要件を満たすための「法的安全装置」**です。
「旧株券」か「新株券」か? どちらを提出するのか
かつての紙ベースの手続き(旧ONETT)では、「旧株券(売り主名義)」のコピーを添付するのが通例でした。
しかし、現在の eONETT(電子版ONETTシステム) では、アップロード欄が「Stock Certificate(株券)」とされており、名義の指定はありません。
実務上は 新株券(買い手名義) を添付するのが一般的です。
その理由は以下のとおりです:
- eCAR申請は「譲渡が完了した取引」に対して行うため、譲渡後の株券が存在しても矛盾しない。
- 旧株券は紛失していることが多く、実際に存在しないケースが珍しくない。
- BIR担当者も、STB(Stock and Transfer Book)に譲渡記録が残っており、新株券が発行されていればそれを提出して構わないと案内することが多い。
つまり、旧株券がなくても、STBに譲渡が記録され、新株券が発行されていれば問題ありません。
法的に見ると、譲渡の成立はいつか?
フィリピンの会社法(Revised Corporation Code)第62条によれば、
株式の譲渡は、会社のStock and Transfer Book(株主名簿)に記録された時点で効力を生じる。
したがって、株式譲渡の法的な成立は「STBに記録された瞬間」です。
つまり、eCARは「譲渡を承認する」ものではなく、税務上の証明書にすぎません。
譲渡の事実は、Deed of Sale of Shares の締結とSTBへの記録によってすでに確定しているのです。
フィリピンにおける株券の本当の役割
株券は「株主であることを示す証憑」ですが、それ自体に所有権を生じさせる効力はありません。
フィリピンでは、株券よりも STB(株主名簿)への記載 が法的に優先します。
つまり、極端に言えば株券を失くしても、STBに名前があればその人が正式な株主です。
まとめ
- eCARは、譲渡の公的裏付け(第三者への対抗要件)を与える税務証明。
- eCAR申請においては、旧株券よりも 新株券(買い手名義) の提出が合理的であり、実務上も一般的。
- 株式譲渡の成立は Deed of Sale+STB記録 によって確定し、eCARはその後に行う税務証明手続き。
- 株券自体は「所有権を証明する補助資料」であり、法的な効力の中心はSTBにある。