フィリピン~日本間の多額な資金移動についての質問
フィリピンで事業を始めたいという方からの相談。
「どうやったら税務署に補足されずにフィリピンへ3,000万円単位の資本金を送金できるか」
「どうやったら税務署に補足されずにフィリピンから利益を日本に送金できるか」
という内容です。以下では、その質問に対して実務的な観点からの回答を整理しました。
1:資本金をWISEで200万円ずつ、15回に分けて送金しようと思う
答え
- WISEで送金した場合、フィリピン側の銀行が「あなたの名前」で正式な送金証明書を発行できるか不明です。将来、日本へ資金を戻す際に必要となるBSP(中央銀行)への外貨登録には、銀行発行の「海外送金証明書」が重要です。
- WISEは「認定銀行」ではなく「認定送金機関」に過ぎず、送金証明の名義や内容が不十分となる可能性があります。
- 日本の銀行から送金することには特段のデメリットはなく、公的記録が残る点でむしろ安全です。大口資金移動ではWISEのメリットはほとんどありません。
- なお、WISE経由の送金でも金融当局は情報を把握しています。隠す意図でWISEを利用する意味はありません。
2:銀行から海外送金すると税務署に補足されて面倒になるのでは?
答え
- 銀行経由で透明に資金を動かし、公的記録を残すことが重要です。
- 不正や細工を試みれば試みるほど税務署の疑念を招き、かえって面倒になります。日本の金融システムは連動しており、海外送金はある一定金額(例:100万円以上等の基準)で報告対象になります。
3:銀行の担当者が「海外送金できるかわからない」と言った
答え
- 「海外送金できない銀行」は基本的に存在しません。
4:融資を受けた場合、送金は個人経由か銀行から直接か?
答え
- 事業融資であれば、通常は銀行が借り手(法人)名義で直接フィリピンの事業口座へ送金します。個人を介することは一般的ではありません。
- 個人名義の借入を個人で送金することは理論上可能ですが、事業資金としては説明上不自然です。
5:フィリピンで得た利益で返済するために毎月日本へ送金するのは避けたい(補足される)
答え
- 個人借入の場合、銀行は返済原資を細かく監視しないことが多いですが、税務・金融当局の補足を避けるための“抜け道”は事実上ありません。
- 現金をハンドキャリーで持ち帰る案はリスクが高い(紛失・没収・説明責任)上、日本国内で大きな買い物等に使えない実務的制約があります。結局、現実的ではありません。
6:フィリピン会社の口座にペソで貯め、それをどの名目で受け取るべきか
答え
- 代表的な受け取り方法は主に二つ:①役員報酬、②配当。いずれも非居住者扱いの場合は源泉課税の対象になります。
- 役員報酬:非居住者支払いに対し最終源泉税(例:25%)がかかります。
- 配当:法人税(20〜25%)を支払った後、非居住者配当に対して源泉税(約25%)がかかります。
- 実効的に25〜30%程度の税負担を想定しておくのが現実的です。100%自己資本の会社であれば配当を受け取れるのは株主(あなた)だけです。
7:フィリピンの個人口座に貯めて、日本のATMで下ろせば補足されないのでは?
答え
- 海外ATMでの引き出しは国際決済システムを通じた取引です。まとまった金額や頻繁な引き出しは金融当局の監視対象になり得ます。
- 「少しずつ、何度もおろす」等の行動は不自然な取引パターンを生み、かえって目立つ可能性があります。
まとめ(実務的な教訓)
- 金融庁・税務署の監視から完全に逃れることはほぼ不可能です。正規ルートで送金し、公的な記録(送金証明、契約書、決議書等)を整備することが最も安全です。
- 隠すための工夫は逆効果。透明性と説明可能性が最大の防御になります。
- 大口の資本金送金や利益送金を計画する場合は、事前に銀行・税務・会計(可能なら現地の法律顧問)と連携して、外貨登録や必要書類の準備をしておきましょう。
- 税負担をゼロにする抜け道は現実的には存在しません。