「5日ルール」と「予防停職」

フィリピンで従業員を解雇するとき、あまり聞き慣れない2つのルール
①5日ルール(Five-Day Rule)
②Preventive Suspension(予防停職)
についてです。
今回は、実際に横領・窃盗が疑われるケースを踏まえて、この2つのルールをわかりやすく整理します。

5日ルール(Five-Day Rule)とは?

フィリピンの労働法では、従業員を解雇する前に本人に弁明の機会を与えること(Due Process)が法律で義務付けられています。
その際に使うのが Notice to Explain(NTE) ですが、このNTEを渡した後は、必ず次のルールを守らなければいけません。

NTEから「最低5日」待つことが義務(DOLE基準)

  1. 土日・祝日を含む「暦日」で 5日
  2. 従業員が弁明書を書き、証拠を集めるための最低期間
  3. 5日未満で解雇通知を出した場合、手続き違反となり、解雇は無効となる

例)
1月10日:NTEを手渡す
1月11日〜15日:5 calendar days(弁明期間)
→ 1月16日以降に調査結果の通知(Notice of Decision)が出せる

つまり、たとえ横領の現行犯であっても、手続きだけは守らなければならないということです。
日本のように「翌日解雇」「即日解雇」は、フィリピンでは基本的に不可能です。

2. Preventive Suspension(予防停職)とは?

5日ルールのせいで、横領をした疑いがある社員が普通に出社してくる――
こういう場面は、フィリピンでは珍しくありません。
そこで使うのが Preventive Suspension(予防停職) です。

従業員を “一時的に自宅待機させる” ための制度

DOLE は以下のケースで preventive suspension を認めています:

  1. 会社の財産を守る必要性がある場合(横領・窃盗・不正アクセスなど)
  2. 証拠隠滅、同僚への圧力を防ぐ必要がある場合
  3. 身体・安全・業務に重大な脅威がある場合

横領は DOLE が認める典型的な理由です。
そのため、NTE の5日間+調査期間まるごと、出社させないことが可能です。

Preventive Suspension の重要ポイント

  1. 最大30日(無給でOK)30日を超える場合→ 延長は有給扱いにする、または復職させる必要があります。
  2. 懲戒ではない点に注意 Preventive suspension は punishment(懲戒処分)ではありません。あくまでも 調査のための一時的な待機。
  3. NTE は別途必須 予防停職にしたからといって、5日ルールが消えるわけではありません。NTE →(5日間)→ Hearing → Decision Notice(解雇通知)の流れは必ず守ります。

横領に関しては DOLE が定める「just cause(正当解雇理由)」に該当します。
しかし、どれだけ証拠が揃っていようと、手続きを間違えれば
手続き違反 → 会社側敗訴 → バックサラリー + ダメージ
という最悪の結果になります。
そのため実務では、

  1. 即日 Preventive Suspension(予防停職)最大30日間の自宅待機(無給でOK)
  2. 同日に Notice to Explain(NTE)発行 → 5 calendar days の弁明猶予
  3. 調査(Hearing)必要であれば実施
  4. Notice of Decision(解雇通知)Serious Misconduct / Fraud / Loss of Trust に基づき解雇

という流れを取るのが最も安全です。