大企業ならではの「署名問題」をどうクリアするか
フィリピンで事業を行うためには、外国企業であっても BIR(税務署)のTIN番号 を取得する必要があります。
しかし、日本の上場企業となると、一般的な中小企業とは異なる「手続き上のハードル」が存在します。
この記事では、上場企業がTIN番号を取得する際に直面しがちな問題点と、それをクリアするための具体的な方法を整理します。
上場企業が直面する主なハードル
1. 代表取締役社長の署名が簡単に取れない
BIR手続きで求められる書類には、企業の代表者の署名が必要になるケースが多いです。
しかし上場企業の場合、社長の署名は非常に取りづらく、実務的には現実的ではありません。
2. 取締役会は月に1回だけ
上場企業では取締役会開催頻度が低く、議題も多いため、「フィリピンでTIN取得のための決議書を作成する」というのは現場レベルでは非常にハードルが高いのが実情です。
3. 法人の印鑑証明書を出してくれない
日本の上場企業は、法人の印鑑証明書(登録証明)を外部用途に発行しないことが多いです。
そのため、通常の「会社印鑑証明+代表取締役の署名」という王道ルートが使えません。
4. しかし、取締役の一人であれば署名依頼が可能
多くの場合、「会社代表ではなく、取締役の一人であれば印鑑証明/実印の押印を依頼できる」という現実的な運用が可能です。
この点を最大限に活かして、 以下のようなスキームでTINを取得します。
実務上もっとも確実に通る方法
結論: “特定の取締役Aを代表者として扱い、その人の署名と印鑑証明に基づいて一連の書類をまとめる”
以下は実際にBIRが受理しているパターンで、上場企業でも最も現実的な手法です。
TIN取得に必要な書類一覧と注意点
1. Form 1903(TIN申請書)
- 会社を代表して 取締役Aが署名
- 署名後に アポスティーユ取得が必須
- 上場企業でも取締役1名の署名で受理される
2. BIR用のSPA(Special Power of Attorney)
- 取締役Aがフィリピン現地代理人に委任する書類
- こちらも 取締役Aの署名 → アポスティーユ の流れ
- BIR提出では最重要書類
3. アポスティーユ取得用の委任状(取締役A → 日本側代理人)
アポスティーユ取得を日本で行うには、代理人が外務省で手続きをするための委任状が必要です。
- 取締役Aの 個人の実印
- 印鑑証明書 が必要(会社の印鑑証明は不要)
4. 日本の法人登記簿謄本(原本+英訳)
- 登記簿に 取締役Aの氏名が記載されていることが必須
- これにより、通常必要となる「取締役会議事録」を省略できる
- 英訳付きで提出
5. 法人登記英訳の翻訳宣誓書(Affidavit of Translation)
- 英訳者(日本側代理人)が面前署名
- 公証後に アポスティーユ取得
- BIRは英訳の真正性を重視するため必須
全体の流れまとめ
- 取締役Aを手続き上の“代表者”とする
- Form1903とSPAをAが署名 → アポスティーユ
- 取締役A → 日本側代理人への委任状(実印+印鑑証明)
- 法人登記簿(原本)を取得
- 英訳作成 → 翻訳宣誓書 → 公証 → アポスティーユ
- 全書類をフィリピンの代理人へ送付
- BIRが審査しTINが発行される
上場企業でも対応可能な「現実的スキーム」
BIRは「代表取締役の署名でなければ受け付けない」とは言いません。“会社の役員(取締役)が会社の代理として署名している”という証明があれば受理します。
そのため、法人登記に取締役Aの名前が載っていることが最重要ポイントとなります。
取締役会議事録も不要となり、上場企業でも無理なく手続きを進めることが可能です。