フィリピンで25年以上ビジネスをしてきて、私は日本では考えられないような“認知の違い”に何度も直面してきました。
会計・税務・法務・ビザ手続きから、建築CADや内装工事まで、さまざまな分野でフィリピン人スタッフと仕事をしてきましたが、そこで分かったことをまとめました。
フィリピン人は「理論」や「抽象概念」に極めて弱く、「ルール化された作業」に圧倒的に強い
これは「能力の問題」ではなく、教育・文化・社会構造の違いから生まれる“認知スタイルの違い”です。
その特徴を簡単にまとめると、
- 抽象的な概念 → 苦手
- 因果関係の理解 → 苦手
- 類推(アナロジー)→ 非常に苦手
- 判断を伴う作業 → 苦手
- 明確なルールのある作業 → 得意
- 同じ作業の繰り返し → とても強い
となります。
この特性を理解しないと、指示が通らない理由が分からず、日本人マネージャーは大きなストレスを抱えることになります。
実例①:AEP(DOLE)と PEZA Visa の誤解
最近、私がスタッフとやり取りした中で象徴的なことがありました。
あるクライアントのAEP(外国人労働許可証)が “1年のみ” 許可されて戻ってきました。
本来、雇用契約を3年にすればDOLEは最大3年のAEPを出せるはずです。
不思議に思い、スタッフに理由を聞いてみました。
しかし返ってきた答えは:
- 「3年のEmployment ContractはDOLEがApproveしません」
- 「PEZAが2年までしか認めないのでContractも2年以下にすべき」
- 「This is a 1-year application」
どれも 事実ではありません。
本当は:
- DOLE AEP → 最大3年
- PEZA Visa → 最大2年
- Employment Contract → 3年にするのが正解
つまり、
AEPが1年しか出なかったのは“スタッフが1年契約を作って申請したから”。であってDOLEが制限したわけではありません。
このように、「どの機関が何を許可しているか」という構造そのものを理解していない のです。
実例②:建築CADの断熱材──意味は理解できないが、ルールなら守れる
建築CADでも全く同じことが起こります。
「断熱材は熱抵抗を確保し、結露を防ぐために必要」
こう説明しても、まず理解されません。
しかし、
「外壁のコンクリートには必ず25mm断熱材の線を描くこと」
という“ルール”にすると、
彼らは驚くほど正確に描きます。
つまり、概念の理解はできなくても、手順の実行は完璧にできる のです。
実例③:内装工事の“概算”が出せない問題
さらに特徴的なのが、フィリピン人スタッフは 類推(アナロジー)がほとんどできないという点です。
内装工事の概算見積もりを頼んだとき、日本人なら次のような回答が返ってきます。
「この広さならおおよそ●●万~●●万ぐらい」
「過去のオフィス案件だと〇〇㎡で△△万だったので、今回もその程度」
つまり、条件が完璧ではなくても、経験から“だいたいこのくらい”と推定できる。
しかしフィリピン人スタッフに同じ質問をすると、必ずこう返ってきます:
「敷地はどこ?」
「プラン図は?」
「いつ工事開始?」
「エアコンは何基?」
つまり、全ての具体情報が揃わない限り、1mmも推定できない。
その結果、検討段階の図面でも、本来不要なドア枠の詳細など「最終図面レベル」の情報を書き込もうとします。
理由は簡単で、“概算”や“検討案”といった中間概念が彼らには存在しないから です。
全てが
- 決まっている
- 書くべきものが明確
- 変更がない
という前提で動いてしまうのです。
ではどうマネジメントすべきか?
答えは非常にシンプルです。
✔ 理論は教えない(理解されない)
制度の背景・抽象概念・因果関係を教えると混乱します。
✔ ルール化・手順化して渡す
「Always」「Never」「If → Then」で明文化するのが最強。
✔ 判断させない
判断は日本人側が行い、
スタッフには実務部分のみを任せる。
✔ スタッフの強みを最大化する
決まった作業・型のある手順・反復業務では非常に高いパフォーマンスを発揮する。
結論:フィリピン人スタッフは“ルール化”で真価を発揮する
フィリピン人スタッフが理論に弱いわけではなく、理論を理解する教育を受けていないだけ です。
しかしその一方で、明確なルールに基づく実務処理能力は非常に高い。
したがって、日本側の役割は「理論を教えること」ではなく、“正しいルールを設計し、それを守らせること” です。
この認知の違いを理解した瞬間に、マネジメントのストレスは激減し、チーム全体のパフォーマンスは劇的に向上します。
フィリピン人スタッフが「ルールを与えると力を発揮する」理由
フィリピンでは、
- 家庭
- 学校教育
- 職場文化
このすべてが “role-based(役割に従う)” と “rule-following(決められたルールに従う)” を前提としており、逆に抽象概念・根拠・理論・因果関係を理解して応用する教育はほとんどされていないためと考えられています。