複数の市にまたがって事業を行う場合について

フィリピンでは、事業を行う「場所」ごとに、バランガイの許可と市役所の許可(ビジネスパーミット)を取得しなければなりません。日本であれば、拠点が増えれば開業届を税務署に提出するくらいで特に煩雑な手続きはありませんが、フィリピン特有のこのビジネスパーミットは毎年1月に更新手続きをしなければならないなど、そこそこに煩雑な手続きの一つです。

中でも2つ以上の市にまたがって事業を行う場合は、どういうことに注意すべきかについてご紹介します。
弊社では、本社の住所をマカティなどにあるバーチャルオフィスで登記し、実際のリアルオフィスは本社住所としては登記をしないという方法を強く推奨しています。
この場合、あり得るパターンは次の3通りです。

  本社住所 リアルオフィス
A A市にあるバーチャルオフィス 拠点なし
B A市にあるバーチャルオフィス A市内のオフィス
C A市にあるバーチャルオフィス B市内のオフィス

Bの場合は、本社とリアルオフィスがあるので、双方のビジネスパーミットが必要です。
場所は同一の市内ですので、A市にビジネスタックスを納めれば済み、特に問題はありません。
Cの場合は、本社とリアルオフィスがあるので、双方のビジネスパーミットが必要なのは同じです。
ビジネスタックスの納税は、A市とB市の双方に支払うことになります。

ビジネスタックスの計算は、1年間の売上に対し、マカティのIT系であれば0.75%です。売上に対してかかるので注意が必要です。また、申告が翌年1月の20日頃が期限となっており、仮に12月決算ですとまだ売上が確定していないことがほとんどですので、見込みで申告をし、翌年に過不足を調整するという方法をとります。

A市とB市の双方に申告する時、あまり事情をわかっていない社員などに任せると、双方に売上全額を申告してしまい、双方の市に売上の0.75%を支払ってしまうということが起きます。
ビジネスパーミットの明細を確認する経営者はそうそういないでしょうから、気づかずに何年も損をしている会社もあるかもしれません。
この場合は、A市での売上はいくら、B市での売上はいくらだった、という文書を作成し、双方の市に提出して税金を納めることになります。

バーチャルオフィスの場合、机もなく社員もいませんから売上はゼロなので、ゼロと申告したいところですが、市はなかなかこれを認めてくれません。直近の例ではマカティ市にバーチャルオフィス(本社)があり、パシグ市にリアルオフィスにあるお客様のケースで、マカティ市がゼロ、全額をパシグで申告したところ、マカティ市が「最低でも30%を申告しろ」と命令されました。
その分、パシグ市の売上を減らして修正申告すると、パシグの市役所も認めてくれず、結局、130%分の売上を申告せざるを得なかったことがありました。金額にすれば少額でしたのでそれで済ませましたが、売上が大きい会社は注意する必要があります。

2024年の例
売上が130Mとかなり大きい会社さんで同様のケースがあり、実際には売上がゼロであるMAKATI市から130Mの30%相当の売上を申告しろと言われたことがありました。
さすがに、存在しない売上を申告したり、ビジネスタックスを払うことには承服できなかったため、正式に抗議を申し入れたところ、売上ゼロで認めてもらうことができました。ローカルスタッフは、こういうときは特に深く考えずにとにかく市役所に言われたとおりに動く傾向がありますので、おかしいと思ったら正式に抗議をしたほうが良いでしょう。

フィリピンでは官庁の横の連携は皆無です。税務署であっても隣の管轄は全く別の会社という考えですので、隣の管轄に間違って支払ってしまった税金を管轄移動させるのは大変に骨が折れます。ただ市役所は過払いのビジネスタックスについてはTax Creditを発行しますので、諦めずに対応する価値はあります。