マネジメントの失敗例 スポークスマンを作るな

自分自身のマネジメントの失敗例です。

創業から17年働いているある社員を信用しきったばかりに、もう少しで会社をめちゃくちゃにされそうになった話です。

その古参社員は総務的なポジションで、社内の人間関係に非常に敏感で、事あるごとに私に報告をしてくれていました。
また、社員の給与計算を行っている関係上、全社員の給与からボーナスまで完全に把握しているという立場でもありました。
実際、その古参社員からの報告や助言は、概ね正しく、私も完全に信用するどころか、頼ってもいました。

今思えば、これがその古参社員のテクニックだったのですが、
「このままでは社内が分裂してしまう」
「このままでは多くの社員が辞めてしまう」
と私に伝えることがたびたびありました。
そのように言えば、私が何らかのアクション(ある特定の社員に何らかの叱責や警告)を起こすと知っていたので、それを自分の社内政治に使っていたのです。

決定的だった事件は、2023年の10月頃に起きました。

なぜかその古参社員が、独断で「来週から、在宅勤務は禁止なので、各自、自宅のパソコンを会社に持ってくるように」と社内に指示を出したのでした。
私はそのことを知らなかったのですが、数人の社員が「今パソコンを会社に戻しました」とか「なんとか在宅勤務を認めてほしい」とメッセージが届いたので、「なぜそんなことをいちいち報告するのか」と聞いたら、「来週から在宅勤務が禁止になったと連絡があった」と社員たちは言いました。

情報源をたどると、その古参社員が出どころと分かり、経緯を聞き込むと、「他のリーダーたちと話し合って決めたことなので私一人で決めたことではない」と主張しました。
その辺りを、名前の出てきた者に確認すると「そういう会話はあったが、賛成とも反対とも何も言っていない。ただ聞いていただけ」との答えでした。
結局、その古参社員がほぼ独断で決めて、あたかも会社の決定であるかのように社員に「来週から在宅勤務は禁止」という通達を出したのでした。

社長でも役員でもない社員が、そんな重要なことを社員に指示するとは、さすがに重大な越権行為で、放置することはできません。

全社員にむけて一斉に「在宅禁止という決定はしたことはない。パソコンは元の状態に戻せ。今までと同じ方法を続けろ。パソコンの移動にかかった費用は会社で負担するから申告しろ」と通知を出しました。

その古参社員に対しては、警告書を出しました。17年間、あたかも私のスポークスマンのような立場だったので、私から警告書をもらうなど夢にも思わなかったかもしれません。この件を有耶無耶にするのは大変にまずいことなので、すぐにかなり強い口調の文章で警告書を出しました。

ここからは私の推測ですが、その社員は会社の受付的なポジションでもあるため、私は在宅勤務を認めていなかったのですが、他の会計やCADの社員は在宅勤務が認められており、それが面白くなかったようです。そこで、全員に在宅禁止になってほしかったようです。

またその社員の特徴として、「社内全員が、全員仲良しの状態でなければならない、それを乱すものは処罰されなくてはならない」と考える傾向がありました。
私も、それが理想だと思っていた時期は長かったのですが、考えてみれば、30人の社員全員が気の合う者同士、ということなどあるはずもなく、気の合わない者が数人がいるのはあたりまえなのです。それをマネジメントの介入でなんとかしようとするのは根本的に無理な話で、極端な話、仕事がうまくいきさえすれば、そんなことはほっとけば良いのです。
あるいは、やるとしても、「仲が悪い者同士は、同じチームにしない」くらいで良いのです。

思い返せば、過去の何人かの優秀な社員が辞めたときも、この古参社員が何らかの形が絡んでいたので、居づらい雰囲気を醸成して追い出してしまったのでは、と思います。

今はどうなったかと言うと、その社員は完全に静かになり、社内の「誰々と誰々がどうだ。ほっとくと大問題になる」というようなことは一切言わなくなりました。
それで何か起こるかというと、特に何も起きません。社内の取るに足らない問題を針小棒大に取り上げていただけだったようです。

フィリピンに進出したばかりの方は、どうしても全社員を自分一人でマネジメントすることに慣れておらず、ついつい事務の社員であるとか、通訳的な社員を頼ってしまうと思いますが、決して自分のスポークスマン役にしてはいけません。スポークスマンはあなたの知らない間に「陰の帝国」を築いてしまいます。