不動産の賃料収入の税務(非居住者)

フィリピンに不動産を所有し、賃料収入を得ている日本人(日本在住)の正しい税務申告について。

法人設立が基本

フィリピンに不動産を所有し、賃貸に出しているということは継続的に賃料収入を得ていることになるので、税務的にはフィリピンで事業を行っている非居住者である。
フィリピン国内で事業を行っているものは、税務署に事業を登録し、オフィシャルレシートの保持、帳簿の維持、毎月の税務申告を行わなければならない。
売上3M以下であればnon-VAT企業(パーセンテージTAX適用)、3M以上であればVAT企業(賃料にVATを加算徴収)として登録することになる。

税務署登録をするには、個人であればDTI登録、法人であればSEC登録が必要である。さらに、バランガイ、市のビジネスパーミットの取得も必要となる。
ところが、外国人はDTI登録を行うことができない(外国人は個人事業主にはなれない)ので、外国人オーナーは、賃貸業を生業とする法人をたててSEC登録を行う選択肢のみとなる。

この場合、テナントは、その法人の銀行口座(フィリピン国内)に5%源泉した上で、更にVAT企業であればVATを加算して賃料を支払い、法人はオフィシャルレシートを発行する。
法人は毎月の申告、四半期の申告、決算など、通常の法人と全く同様の申告を行わなければならない。

※しかし現実には、不動産の賃貸だけを目的に法人をたてている不動産オーナーは1%もいない。賃料収入を税務申告せず、オフィシャルレシートも発行しないというのが、現実にはスタンダードとなっている。

最終源泉税25%

もう一つの準合法的な税務として、テナントから賃料を受け取る際に、25%を源泉してもらう、という方法がある。

「フィリピンを源泉とする取引に対する支払いを、フィリピン非居住者に対して行う」場合は、支払額から25%を源泉することで、双方の税務が完了するというルールがある。
支払う側は、賃料の25%を源泉し税務署に納めることで、その家賃を経費として申告することができる。
一方、賃料を受け取る不動産のオーナー側は、テナントが25%源泉を行っていさえすればフィリピンでの税務が完了する。

この場合、フィリピンでの事業を登録する義務が回避できる訳ではないし、そもそも非居住者が所有する不動産の賃料収入が、この最終源泉税に該当するかどうかは明確ではない。
テナントが25%を納税した時の申告書と支払いを行った証拠をテナントから受け取っておけば、仮に日本のどこかから「フィリピンで納税している証拠を見せろ」と言われた場合でも、それを見せれば済む可能性は高い。

※現実には、この最終源泉税の存在をテナント側、オーナー側ともに理解していることは少ない。

上記のいずれにも該当しない場合

フィリピンに法人もない、かといってテナントが賃料から25%源泉しているわけでもない場合はどうするのか。

完全に合法とは言えないが個人の確定申告をしてしまうという方法がある。

個人の確定申告書には3種類あるが、フィリピンに不動産を所有する非居住外国人の場合は1701Aが最も近いと思われる。

Form 適用税率
Form-1700 フィリピンの企業からの給与収入のみを得ている人 通常の給与所得者と同じ累進課税のみ。
Form-1701 フィリピンの企業からの給与収入と、個人事業収入の混合の人、もしくは、通常の経費申告(Itemized Deduction)を適用する個人事業収入のみの人 次のいずれか
A. 通常の給与所得者と同じ累進課税による計算
経費の計上は次の2通りから選択
a.通常の経費申告(Itemized Deduction)
b. OSD(40%のみなし経費)。非居住者は適用不可。B. 収入から250,000を引いた額の8%で税額決定。ただし収入が3M以下の場合のみ適用可能
Form-1701A 個人事業収入のみの人 次のいずれか
A. 通常の給与所得者と同じ累進課税による計算
経費の計上は OSD(40%のみなし経費)。非居住者は適用不可。
B. 収入から250,000を引いた額の8%で税額決定。ただし収入が3M以下の場合のみ適用可能※年収937,500以下の場合はAが低く、それ以上の場合はBのほうが低い

1701Aの税率を見て分かるように、非居住者にはOSDは認められていないため、Bの、「収入から250,000を引いた額の8%」を適用することになる。
しかしながら、これが適用できるのは、収入が3Mペソ以下の場合のみなので、3Mを超えた非居住者には適用するルールが存在しないことになる。

結論

上から順番に見ていき、ご自身のコンプライアンス意識と照らし合わせて納得の行く所で申告を済ませるしか無いようである。
コンプライアンス度を個人的な感覚で採点すると

1.法人を設立する。100点。但し法人維持の諸経費を考えると、いくらも手元に残らない可能性がある。
2.最終源泉税25%を引いてもらう。80点。
3.確定申告を行う。8%で税額計算した場合は70点、OSDで計算した場合は50点。
申告をしたばかりに当局に補足され、登録義務違反、月次・四半期申告義務違反、ビジネスパーミット未取得を咎められ、やぶ蛇になる可能性もある。
4.一切申告を行わない。多くのフィリピン人が採る方法。コメントは差し控えたい。