税務調査がどのように行われるか

2022年の後半から2023年にかけて、弊社の顧客に立て続けに税務調査のレターが届きました。おそらくCOVIDや税制改革などの影響で税収が不足し、社歴が5年を超えるような企業に片っ端から調査をかけているようです。
とにかくメチャクチャな金額をふっかけてきて、最終的には10分の1くらいの額で落ち着くと言われる税務調査、実際にはどのようにしてその「メチャクチャな金額」をふっかけてくるのでしょうか。

税務調査は、LOAと呼ばれるレターを受け取ることから始まります。

レターを受け取った企業は、記載された期日までに記載された資料を提出します。提出する資料は、帳簿、レシート、請求書、税務申告書、通帳などほぼ全ての会計資料です。

数週間経つと、税務署から第1回アセスメントが送られてきます。
内容は、適当に金額が書かれているというのではなく、一応、全て計算に基づいています。下記のように税種別ごとに計算し、それを合計したものを提示してきます。

  1. 法人税(Income Tax)
  2. VAT(付加価値税)(Value Added Tax)
  3. 拡大源泉税(Expanded Withholding Tax)
  4. 給与の源泉税(Withholding Tax on compensation)
  5. 最終源泉税(Final Withholding Tax)
  6. 最終源泉VAT(Final withholding Tax of value added tax)

法人税

  1. 提出した帳簿に記載された経費と、決算書に記載された経費を比較し、その差額を否認してきます。
    帳簿というのはルーズリーフ申告をしている場合、決算日の15日後が提出期限ですので、当然全ての経費が記録されているわけではありません。調整を経て決算書にて正しい経費を計上するのですが、「決算日の15日後に提出された帳簿には記載されていないので過剰申告なので認めない」として経費を否認します。
  2. 請求書を精査し、過年度の日付が入った請求書は経費として認めないとされます。例えば請求書の日付が2019年12月、支払ったのが2020年1月であれば2019年の経費であり、2020年の経費に計上することは不可とされます。
  3. 拡大源泉税に関し、源泉税が支払われていない経費については否認されます。
  4. 給与の源泉税に関し、源泉税が支払われていない人件費については否認されます。
  5. 最終源泉税に関し、最終源泉税が支払われていない経費については否認されます。
  6. 客先から回収できなかった源泉徴収票(いわゆるForm 2307)については否認されます。
  7. 2~6項目で否認した経費の合計に、法人税率(20%もしくは25%)をかけたものを追加の法人税として請求します。
  8. 上記の金額に対し年利12%で利子が加算されます。

VAT

  1. PEZAなどのnon VAT企業からの売上がある場合、それらの企業のnon-VAT証明書がない限り、全てVAT企業とみなされ、VAT12%が請求されます。
  2. 未計上の売上に対するVAT12%が請求されます。
    計上されていない売上はこのようにして計算されます
    法人税申告書に記載された売上A
    前期末の未収金-今期末の未収金=売上B
    今期末の預り金・前払金-前期末の預り金・前払金=売上C
    A+B+Cが本来の売上であるとし、(A+B+C)から毎月のVAT申告書にで申告された売上との差額について、VAT12%が請求されます。
    預り金、前受け金という概念は税法上存在せず、受け取ったものは全て売上であるとされます。
  3. オフィシャルレシート、オフィシャルインボイスを精査し、所定の書式に従っていないものはInput VATとして認めないとし、同額が請求されます。
  4. 上記の合計に対し年利12%で利子が加算されます。

 

拡大源泉税(Expanded Withholding Tax)

  1. 多くの企業がTWAに認定されている今、ほぼすべての支払いが拡大源泉税の対象ですので、源泉税を支払っていない経費については全て源泉税の請求がされます。
    1,2,5,10,15%などの税率は適当に決めるようです。
    →現在の税法では、指摘後であっても源泉税を支払えば経費性の否認にまでは至りませんので、源泉税の支払い忘れについては遅延支払いをするしかありません。
  2. 上記に対し年利12%で利子が加算されます。
  3. なお、ここで源泉税を支払っていない経費は、「1:法人税」において「経費として認めない」として20%もしくは25%の法人税が別途請求されます。

 

給与の源泉税(Withholding Tax on compensation)

  1. 毎月の給与源泉税申告書で申告している給与12ヶ月分の合計と、法人税申告書に記載されている「人件費及び福利厚生費」を比較し、差額についての源泉税が請求されます。
    なお源泉税率については、支払い源泉税総額と給与総額からみなし税率が計算され適用されます。
    →法人税申告書に記載されている「人件費及び福利厚生費」には社会保障費の法人負担分が含まれているので、当然差額が出るのですが、お構いなしに請求してきます。
  2. 上記に対し年利12%で利子が加算されます。
  3. なお、ここで源泉税を支払っていないとされた人件費は、「1:法人税」において「経費として認めない」として20%もしくは25%の法人税が別途請求されます。

 

最終源泉税(Final Withholding Tax)

  1. フィリピン国外の業者への支払いについて最終源泉税30%が請求されます。
    →フィリピン国外で行われたサービスであることを説得するに足る資料を提示する必要があります。
  2. 上記に対し年利12%で利子が加算されます。
  3. なお、ここで源泉税を支払っていないとされた経費は、「1:法人税」において「経費として認めない」として20%もしくは25%の法人税が別途請求されます。ちなみに最終源泉税というのは、イメージとしては、フィリピン国外の個人・法人がフィリピンにやって来て何らかのビジネスを行い売上を上げるようなケースです。この場合は、フィリピンへ法人税相当額を収めなければなりません。それが最終源泉税です。
    フィリピン国外でのサービスであれば当然、フィリピンの税法は適用されません。
    しかしながら、フィリピン企業に対する「アドバイス」「コンサルティング」などは大変微妙ですので、最終源泉税は不可避と考えたほうが良いでしょう。

 

最終源泉VAT(Final withholding Tax of value added tax)

  1. フィリピン国外の業者への支払いについて最終源泉VAT12%が請求されます。
    →フィリピン国外で行われたサービスであることを説得するに足る資料を提示する必要があります。
  2. 上記に対し年利12%で利子が加算されます。ちなみに最終源泉AVTというのは、イメージとしては、前述の最終源泉税と同様、フィリピン国外の個人・法人がフィリピンにやって来て何らかのビジネスを行い売上を上げるようなケースです。この場合は、フィリピンへVAT相当額を収めなければなりませんが、売上を上げた側はフィリピンに存在しない企業・個人なので代わりに支払いをする側が12%を源泉して納税するというものです。
    フィリピン国外でのサービスであれば当然、フィリピンの税法は適用されません。

 

これらについて、ひとつひとつ反論材料を提示することにより、上記の大部分は税務署側が撤回します。
そして、修正された第2回目のアセスメントを提示してきます。
もしくは、税務署側が、「たいした金額が取れない」と判断したのか、これ以上アセスメントを送ってこないケースもかなり多いです。

まだいくらかの追徴金が取れると税務署側が判断した場合は、第2回目のアセスメントが送られてきます。
多額の繰越損失が積み上がっていいる企業より納税が毎年発生している黒字企業の方が、即、現金回収につながるので第2回アセスメントに進む確率が高いのではないかと思われます。

第2回目のアセスメントが送られてくると、かなり執拗に「いくらなら払えるんだ?」「早く回答しろ」「早く回答しないと、もっと金額が増えるぞ」というようなことをこちら側の担当者に言ってきます。たいてい、フィリピン人担当者はこれでビビってしまい、特に内容も見ずに「早く金額を答えてくれ、払わないと大変なことになる」と言ってきます。
ここは落ち着いて、何が実際に申告漏れで、何が過剰な請求なのか、税務署側の計算根拠は全て正しいのかを精査したほうがよいです。実際に税務署側の根拠をひとつひとつ調べてみると、かなりいい加減であることが多いです。
また、「この会社はしつこく精査する会社だ」と印象付けることは、次年度の調査を避けるためにも非常に重要です。脅しに乗ってしまうと、来年以降も巡回コースとなるでしょう。

税務調査で大損害を受けないための心得

  1. 全ての記録を残す。資料を出せなければ、第1回アセスメントを飲まざるを得ず、交渉が不利になるどころか、交渉の土台にすら乗りません。
    会計事務所を切り替えるときなどは、会計資料がまるごと消失するケースが多いので要注意です。
  2. 契約書、レシートの宛名は全て正確な会社名にする。
    日本のように、実態で見てくれることはなく、形式優先ですので、宛名が異なっている請求書、契約書などは有効な経費として一切認められません。
  3. 預かり金、前受け金は全て税法上は受け取った時点で売上となります。
    会計上は、前払いを受けた場合などは、毎月そこから振り替えるような処理をし、通常親会社の経理担当者からもそのように処理するように言われますが、法人税の申告書では、預かり金、前受け金の残高を全て売上に振り替える処理が必要になります。
  4. ほぼ全ての支払いには源泉税が絡みます。会計事務所に支払いを任せている企業はそれほど問題ありませんが、日本側からフィリピンの企業へ直接支払いをしているような企業は、源泉税について理解されていないことがほとんどですので、要注意です。