フィリピン人マネジメントを餃子づくりに例えてみる

もうかれこれフィリピンのスタッフと30年以上仕事していますが、彼らの仕事の進め方を見ていると、餃子作りだなぁと思うことがあります。
あるフィリピンの日本料理屋へ行った時、まだ準備中だったのか、スタッフが4人位で一つのボウルを囲んで餃子を作っていました。談笑しながらとても楽しそうにみんなで餃子のタネを皮に包んでいました。

  • 楽しそうに、わきあいあいと
  • みんなで
  • 同じことを同時に
  • 特に効率化なども考えず
  • 特に期限や目標もなく、材料がなくなるまで延々と

というような点が、彼らの仕事風景の特徴です。放っておくと、必ずこの方向に行きます。
マネジメントする側としては、餃子の形がどんどん狂っていっていないか、余計な分まで作りすぎていないか、材料が足りているか、などに注意する必要があります。
また、この作業をたとえ何年続けたとしても、何かもっと効率的な手法が生まれてくることはまずありません。効率的な方法を考えるのはマネジメントする側の仕事となります。
個人個人の技量は、ものすごく向上します。毎日同じことをやらせたときの上達具合は、おそらく日本人の数倍上でしょう。ですので、難しい仕事でも、何度も何度も繰り返すことにより、上達させることが重要になります。
かといって、次にシュウマイに挑戦してみる子が現れるということはありません。ずっと餃子を作り続けます。自然に何かに広がっていくことは無いので、マネジメントする側が、ある方向に向けて、完全に導いてやる必要があります。

変化球に弱い

いつも餃子を作っているスタッフに、前触れもなく突然「玉子焼きを作ってくれ」と指示してみます。
卵焼きの作り方の手順を詳細に図解つきで説明します。
最後に、「盛り付けの器はこれを使ってくれ」と言って、四角いお皿の写真を渡します。そのお皿には目玉焼きが乗っています。
お皿の参考として写真を渡しただけなのに、多くのフィリピン人スタッフは、お皿だけでなく目玉焼きにも目が行ってしまい、目玉焼きを作ってしまいます。
一般的な言い方をすると、参考に渡した資料の何を参考にするのかが、仕事を進めるうちにわからなくなり、全てを真似してしまうという傾向が強いです。

どうもフィリピン人の心理として

余計なことをやって怒られることよりも、やるべきことをやっていないことで怒られる方が怖いので、とりあえず全部やってしまう。

という傾向が強いです。よくわからないので、全部やってしまうということが日常的に見られます。
なので、途中途中で、チラッと進捗を見て、間違ったことをしていないか、やりすぎていないかを確認するのは、かなり重要です。

また、もう一つの心理として

「すべきこと」と「すべきでないこと」の両方があると「すべきでないこと」というリストの方ばかりに意識が行く

というものがあります。フィリピン人社員から「DO’S and DON’TSをくれ」と言われたことはないでしょうか。
「就業規則と同じように、業務においても禁止事項を列記して欲しい。何をするとあなたが怒るのかを知りたい」というわけです。

マネジメントする側としては、禁止事項を列記するというのは、恐ろしく手間がかかります。
「このお皿だけを参考にするんだよ、目玉焼きは真似してはだめだよ。テーブルの色も関係ないよ、スプーンも関係ないよ。添えてあるトマトも要らないよ」と全て列記するのは不可能です。
そもそも、指示する側の意図、業務の本質を理解しさえすれば、詳細にわたる「すべきでないこと」リストなどは不要だと思うのですが、本質の理解はとにかく苦手で、怒られないことばかりに気を使う傾向が強いです。
歴史的な背景からなのか、社会がペナルティ文化であるからなのかもしれません。

変化球的な仕事をやらせると、特にこういう混乱が生じやすいので、マネジメントする側としては、変化球的な仕事には細心の注意を払う必要があります。「餃子はあんなに早く上手に作れるんだから、玉子焼きくらい簡単だろう」と思って放任するのは危険です。何十回もやった仕事は上手だが、変化球にはとことん弱いです。

10年たっても同じ方法で餃子を作っている

仮に餃子を作るコツを教えたとして、10年後にタイムスリップしたとすると、驚くことに、おそらくそのとき教えた方法で同じように餃子を作っているでしょう。
業務上の必要性から、ちょっとしたエクセルのフォーマットや、マクロなどを作って渡してあげると、10年たってもそのフォーマットやマクロを、何の改変もせずに使い続けていることに驚いたことが何度かありました。作った本人も、当然忘れています。
これほどまでに指示に従順なのかということにも驚いたし、長い年月の間、何の改変もしないことにも驚きました。
マネジメントする側が、何気なく発した言葉や、軽い気持ちで作ったルールを、10年単位で守り続ける従順さがあるので、トップとしての言動には本当に注意したほうが良いです。
そして、業務改善などが自然に発生することはまずありません。かといって、「何か改善案を出せ」と言っても慣れていないせいか、トンチンカンな話が飛び出してくることが非常に多いです。
とびきり優秀な子は出来るかもしれませんが、そういう人材は極めて稀ですので、業務改善、効率化などは基本的にマネジメント側が行っていくしかないのかな、と思います。