オキュパンシー・パーミットとは

オキュパンシー・パーミットとは

オキュパンシー・パーミットとは占有許可のことで、その建物がフィリピンの建築基準法にのっとり正しく設計され、施工されたので使っても良い、という許可のことです。

日本では、内装工事ではこういった許認可は基本的に不要ですが、フィリピンでは一つの間仕切りを作るだけでビルディング・パーミットと呼ばれる工事許可が必要で、工事が終わった後には、オキュパンシー・パーミットと呼ばれる占有許可が必要です。
このことが何を意味するかというと、物理的な工事がたとえ1ヶ月で終了するものであっても、前後に許認可が必要なので、結局、全体として3ヶ月ほどの期間を見ておかなければならないということです。その間にも賃料が発生しているであろうから、フィリピンに進出してきた事業者が一番イライラする期間でもあります。

オキュパンシー・パーミットには、「建物全体としてのオキュパンシー・パーミット」と「ユニットごとのオキュパンシー・パーミット」の2種類があります。
建物全体のオキュパンシー・パーミットを取得していないビルは、おそらく無いでしょう。しかし、ユニットごとのオキュパンシー・パーミットを取得しているビルは、ほとんど無いと思った方が良いです。仮に、竣工した時に、各ユニットのオキュパンシー・パーミットを取得していたとしても、少しでも内装に手が加えられた場合は、オキュパンシー・パーミットを新たに取得しなければならないことになります。間仕切りを1つ追加したとか、エアコンを1基追加しただけでもオキュパンシー・パーミットが必要となります。つまり、「今から使おうとする内装の状態でのオキュパンシー・パーミットが存在しない限り、オキュパンシー・パーミットを新たに取得しなければならない」ということになります。
オキュパンシー・パーミットは単独で申請するものではなく、必ずビルディング・パーミット(建築申請)から取得しなければなりません。
「我々が工事をしたわけでは無いのに、なぜ、我々がビルディング・パーミットを出さなければならないのか」
と多くの外国人は感じるのであるが、それがフィリピンのルールです。

流れとしては下記です。

  1. バランガイにビルディング・パーミットを提出し、許可を受けます。
  2. 市役所にビルディング・パーミットを提出し、許可を受けます。
  3. 工事が完了したら、Certification of Completion(工事完了届)を提出します。
  4. 検査を受けます。
  5. オキュパンシー・パーミットの発行を受けます

ビルディング・パーミットとはその名の通り、建築申請なので本来は着工前に申請しなければなりません。ビルディング・パーミットが下りる前に着工してしまうことも多いですが、市役所に通報されると、その場で工事の中止となり、多額のペナルティを払うまで工事を再開することができません。工事現場の入り口に、市役所の職員が鎖と南京錠で施錠をしてしまいます。その錠前の形状から、フィリピンではこの強制措置を「パッドロック」と呼んでいます。

図面をどうにかして揃える。

「オキュパンシー・パーミットが無い、どうにかして取得しなければビジネス・パーミットがおりない」と分かったとき、オーナーにしつこく連絡をするのも良いが、オーナーがオキュパンシー・パーミット取得のために機敏に動いてくれることはまずないと思った方が良いでしょう。オーナーが「こっちでやるから」と言ったとしても、何もやらないのが普通です。オーナーから見れば、家賃さえ払ってくれればテナントがビジネス・パーミットを取れようが取れまいが、重要なことでは無いので、積極的には動かないのです。ここはオーナーに依頼するのはあきらめて、事業者自らが中心に進めていったほうが良いでしょう。

まずは借りている場所の図面を取得するところからはじまります。
ビルのアドミに言えば、古い図面の1枚や2枚は出てくるでしょう。CADのデータが取得できれば一番良いですが、データをもらえるケースは5回に1回もないので、あまり期待してはいけません。
紙の図面しかもらえない場合は、それをもとにCADで図面を起こします。とはいえ専門的なソフトウェアなので、施工の業者や建築士に依頼をしなければならないでしょう。

紙の図面が手に入らなければ、現地を測量して図面をゼロから作成するしかありません。
実は、これが一番早い方法です。フィリピンにおいて、アドミや、施工業者と連絡を繰り返し、目的のものを手に入れるのは至難の業であるので、自分でやってしまった方が早いのです。

メジャーで事務所の大きさを計測し、床、壁、天井、空調機器などあらゆる部分を写真撮影します。超音波式のメジャーを使えば、大きな部屋でも楽に計測できます。
これらの現地調査をもとに、CADで図面を作成します。
図面は、建築、設備、電気、衛生の4種類が必要となる。PEZAの場合はこれに加えて弱電(LAN配線の図面)が必要となります。
各図面には、建築、設備、電気、衛生のエンジニアの氏名、ライセンス番号、レシート番号を書き込まなければならないので、図面を用意するのと同時に、エンジニアの確保が必要となります。

4人のエンジニアが必要

日本では一級建築士1人の印鑑があれば、建築確認申請には十分ですが、フィリピンでは、ビルディング・パーミットの申請に、建築、電気、設備、衛生の4人のエンジニアの署名が必要です。(さらに建物の構造体に変更を加える場合は、構造エンジニアの署名が必要。PEZAの場合はこれに加えて弱電のエンジニアの署名が必要。)
ビルディング・パーミットおよびオキュパンシー・パーミットの取得の困難さの理由は、このエンジニアの署名を集める困難さにあります。
まずライセンスを持った、しかもそのライセンスがアクティブであるエンジニアを見つけるのが非常に難しいです。特に、難しいのが弱電のエンジニアで、私もいまだに一人しか会ったことがありません。衛生のエンジニアも、数が少ないです。マニラでさえこの状況なので、地方ではさらに難しいででしょう。
エンジニアのほとんどはフリーランスで、一定の勤務場所というものがありません。
施工会社であっても、社内にエンジニアを社員として抱えている会社はほとんどありません。プロジェクトごとに契約をするのが普通なので、プロジェクトが終わるとエンジニアはどこかへ行ってしまうのです。
連絡をし、図面を見せ、チェックを受け、青焼きを必要部数だけ用意し、図面を本人に渡し、数日待ち、また取りに行くという流れになるのですが、スムーズに出来たとしても3週間はかかるでしょう。
図面の提出先は、バランガイと市役所になるので、必要部数をしつこいくらいに確認した方が良いでしょう。
一部でも不足があれば、また4人分のエンジニアの署名を集めなければならず、また3週間を費やさなくてはならなくなります。
申請書なども、すべて事前に集めておく必要があります。図面だけで無く、申請書にもエンジニアの署名が必要だからです。

ビルディング・パーミットの提出

エンジニアの署名が入った青焼き図面の用意が出来たら、まず、バランガイに提出します。
バランガイでは通常、建築図面のみしか要求されず、電気や設備の図面は不要であることが多いです。手続きも簡単で、提出してから数日で、建築のためのバランガイ・クリアランスが発行されます。
時には「無許可で建築をして2年たっているので、2年分のペナルティを払え」ということを言われることがあります。工事を行ったのは前のテナントであって、自分たちでは無いので、ほとんど言い掛かりであるのだが、そういう話を受けいれてくれる相手ではありません。適当に事情を説明し、値段交渉をするしかありません。

バランガイのクリアランスを取得したら、次は、市役所にビルディング・パーミットを提出します。
申請フォーム、図面、賃貸契約書などが必要となります。
ビルディング・パーミットの申請書は、建築、電気、設備に分かれており、それぞれがさらに、「設計」と「施工」を担当したエンジニアの署名を入れるようになっています。
借りたオフィスが居抜きであれば、だれが工事をしたのかは分からないので、設計のエンジニアと施工のエンジニアを同じにするしかありません。

実際に内装工事を行ったのであれば、「施工者」の欄に施工業者側のエンジニアの署名をいれなくてはなりません。設計のエンジニアに頼んで、施工の欄にも署名を入れてくれることも可能であるが、そこまで責任を負ってくれるエンジニアはいないでしょう。

さて、ビルディング・パーミットを申請したあとは、長い長い時間を待たねばなりません。
市役所の建築課は、通常、3ヶ月間は図面を開くことすらしません。机の上に積んだままです。ビルディング・パーミットは、普通に待てば6ヶ月〜1年。いくらかの金銭を払ったとして、おろすのに2〜3ヶ月を要するでしょう。しびれを切らした申請者が「まだ降りないのか?」と問い合わせをすると、「私にいくらか払えば2週間でおろしてやる」というような話が出てきます。
現在のフィリピンでは、賄賂が必要な場面はかなり減ってきたが、税関と建築局はいまだに賄賂のシステムが残っています。

係わる人間の数が多いのもビルディング・パーミットの特徴です。図面を作成する側に、建築、設備、電気のエンジニアの署名が必要であるのと同様に、市役所側にも建築、設備、電気のエンジニアが存在し、彼らが署名をしなければ前に進みません。最後はボスが署名をし、発行へと向かうので、全体で5〜6人の署名が必要となっている。システムとしてはかなり官僚的です。

要求書類は多いが中身は見ない。

フィリピンの全ての許認可に共通であるが、要求書類がやたらと多く、署名や肩書きなどの形式には厳格である反面、書類の中身に対する指摘はほとんど無いという特徴があります。
ビルディング・パーミットも同じで、一応の体裁が保たれていれば、「この材質を変えろ」とか「ここは1200ミリ確保せよ」といった指摘を受けることはまずありません。ひとたび事故があれば、すべて署名をしたエンジニアの責任という考えが浸透しているためかもしれません。かといって、署名をするエンジニアが、中身をきちっと見ているのかというと、そうでもありません。中身をそれほど見ずに署名をしてくれるエンジニアがほとんどです。

工事完了届を提出する。

無事ビルディング・パーミットがおり、工事が完了したのであれば、工事完了届を提出します。
実際には、ビルディング・パーミットがおりたころには工事が終わっていることがほとんどなので、ビルディング・パーミットが下りたらすぐに、工事完了届を出すことが多いです。居抜きでオフィスを借りた場合も同様です。
必要な書類は、Certificate of Completion(工事完了届)と竣工図です。
竣工図は、ビルディング・パーミットで使用した青焼き図面のタイトルをAS BUILD DRAWINGと変更すれば良いです。やはり各エンジニアの署名が必要なので、ビルディング・パーミットの図面に署名をもらうときに、同時にもらっておくのが良いでしょう。

工事完了届が受理されると、数日後に消防署の担当者が、検査にやってきます。
消防署の職員が検査にやってきて言うことは毎回同じです。

「消火器を○本購入しなさい。この店で買うように。」

といって、消火器を販売している店の連絡先が書かれた小さな紙を渡されます。その店で買えば、消防署の担当者にコミッションが入るようになっているようですが、必ずしもその店で購入しなくてもよいです。
ただし、購入する前に、消火器のタイプだけは消防署の担当者に確認をした方が良いです。
消火器には、赤いものと緑色のものがあり、緑色のものにも2種類の型番が存在します。赤いものは1本2,500ペソ程度だが、緑色のものは1本7,500ペソほどします。
赤いもので良いだろうと思って赤いものを3本購入すると、「これではだめだ。緑色のものを買え」と言われることが多いです。さらに緑色のものを買うと「同じ緑でもこのタイプでは無い。こっちのタイプを買え」と言われたこともあります。そして買った店で交換しようとすると、交換を受け入れてくれなかったりするのです。事前に型番を明確に指定してくれればよいのに、買った後で指摘をするので困ったものです。このトラブルを避けるため、購入前に、消防署の担当者に「何色の何というタイプを買えばよいのか」と確認をしなければなりません。

検査が終わり、指定された消火器の購入も済めば、あとは2〜3週間待つと、オキュパンシー・パーミットが発行されます。半透明の1枚の紙に、オキュパンシー・パーミットと印刷されています。大切な証明書であるから、スキャンをとったあとは、厳重に保管しましょう。