売上の計上

海外売り上げがメインの企業

売り上げの管理は、海外からの売り上げもしくは親会社からの売り上げしかないBPO企業(輸出系企業)と、フィリピン国内での売り上げがメインとなる企業(ドメスティック系企業)とでは、経理上、税務上の手間が大きく異なります。簡単なのは、輸出系企業の方です。

輸出系の企業の場合は、輸出先の企業が、フィリピンの税務署に認可されたオフィシャル・レシートやオフィシャル・インボイスを要求してくることは無いため、パソコンなどで作成した、勝手インボイスで取引を完了させることができます。相手の企業にとって、その請求書がフィリピンの税務署に認可されたオフィシャル・インボイスかどうかということは重要ではありません。領収書についても、海外の企業がオフィシャル・レシートを要求してくることは無いので、極端なことを言えば、セールス・インボイスやオフィシャル・レシートを一切書かなくても、取引上はそれで済んでしまいます。IT企業の中には、一度もオフィシャル・レシートやセールス・インボイスを使ったことが無い企業は多いでしょう。

とはいえ、サービスを提供したら請求書を書き、送金を受けたらレシートを書くことは、フィリピンのルールなので、入金を受け取ってからでもよいので、セールス・インボイスとオフィシャル・レシートをきちんと記入しておかなくてはなりません。

また、海外からの売り上げに対しては、VATの12%を加算して徴収する必要がありません。よってOutput VATが常にゼロですので、翌月の20日に税務署に納めるVATも常にゼロとなり、簡単です。

さらに、海外企業が、支払金額のうちの何%かを源泉徴収することもほとんどないため、国内取引のように源泉徴収票を回収したり、源泉徴収額を管理したりする手間が不要です。

輸出系企業の多くは、PEZA企業として登録することが多いが、PEZAに登録してしまえば、法人税も0%(もしくは粗利の5%)となるため、法人税に神経を使うこともあまりありません。

また、親会社から送金を受けた場合、その金額を「売り上げ」ではなく、「貸し付け」にしてしまうことも理論的には可能です。簡単に言えば、オフィシャル・インボイスを書けば売り上げだし、書かなければ貸し付けです。銀行口座の記録は、税務署へ開示する義務が無いため、そもそも入金自体も自己申告に近いものがあります。なお、「貸し付け」にする場合は、念のため、金銭貸借契約書を作成して印紙税を支払っておいたほうが良いでしょう。

このように、国内取引に比べ、海外からの売り上げに付随する事務作業は少ないです。海外から入金をうけても、事務的に何もしない人が多いが、下記のようなプロセスを心がけるべきです。

  1. 海外送金を受けたら、売り上げか貸し付けかにかかわらず、とにかく、必ずオフィシャル・レシートに記入するようにします。相手から要求されないとしても、書く癖をつけます。
  2. 売り上げとして認識させるのであれば、オフィシャル・インボイスを作成し明細を記入します。これも相手から要求されないとしても、書く癖をつけます。
  3. オフィシャル・インボイスと同じ内容を、XEROのAccounts > Salesから、新規インボイスで入力します。このことにより、P/L(損益計算書)の売り上げの欄に数値が上がってきます。外部にPEZAの月次報告を依頼している場合は、その画面上の数値をみてレポートを作成するように依頼すると良い。インボイスの日付を8月25日にすれば、XEROでは8月の売り上げとして認識され、9月1日と入力すれば、9月の売り上げとして認識されるので、日付には特に注意します。
    XEROのインボイス機能は簡単ですので、経営者自身が操作をしたほうが良いです。輸出型企業であれば、インボイスを送付する先はそれほど多くないでしょうから、作業量としてもたいしたことではありません。XEROで作成されるインボイスは、見た目も美しいので、実際にXEROで生成した請求書を使っている企業も多いです。
  4. 入金を借り入れとして認識させるのであれば、Bank Accounts > Receive Moneyから、借り入れとして入力します。このことにより、B/S(貸借対照表)のにLiability(負債)の欄に数値が上がってきます。

フィリピン国内の売り上げがメインの企業

フィリピン国内の売り上げがメインとなる企業の場合、輸出系企業よりも、売り上げに係わる事務作業が多くなります。

売り上げの集計

POSを導入済みの店舗型小売店業であればPOSから集計を出力することができるので、これを利用することができます(POS端末から集計を書き出すことができるので、その結果を利用します。ただし、フィリピンではPOSシステムの導入にあたっては税務署への届けが必要で、認可されていないプログラムやレジスターを勝手に使用することは禁じられています)。徴収したVATの総額も、同じくPOSから出力することができます。

POSを導入していない小売店やサービス業では、セールス・インボイス(もしくはサービス・インボイス)の発行をもって、売り上げを認識するので、発行したインボイスのカーボンコピーの方を見ながら集計すればよいことになります。しかしながら、税務署で印刷した、手書き用のオフィシャル・インボイスで運用するのは、実際にはきわめて非効率であるので、XEROのAccounts > Salesの機能を使って、普段からXEROでインボイスを作成した方が効率的です。便宜上、こういった認可されていないソフトウェアで、勝手にインボイスを作ることは禁止されているので、XEROで作成したPDFをメールで送信するなどするとしても、最終的には、手書きのオフィシャル・インボイスを発行しなければなりません。

徴収したVATの集計

国外への売り上げと異なり、国内への売り上げなのでVATを加算しなくてはなりません(相手がPEZA企業であれば、VATを付加することは不要)。また、自身の会社が7.3でいうところのnon-VAT企業であれば、VATを徴収してはなりません。

こうして客先から徴収したVATは、集計して翌月20日までに2550M(もしくは2550Q)とともに税務署に納付します。

 

源泉徴収された額の集計(オフィシャル・レシートの管理)

自身の事業が、レンタル業、コンサルティング業、サービス業、コミッションを得る事業、広告費を得る事業である場合、相手が請求書通りの金額を支払わずに、源泉徴収をしてくる可能性が高いです。

源泉徴収義務は、相手側にあるので、こちらのほうから「源泉徴収をするな」とは言うことはできません。相手が、一定の率を源泉徴収すると言えば、基本的にはそれに従うしかありません。

相手が源泉徴収をした場合は、その証明である源泉徴収票(2307)、を回収しなければなりません。この2307は、自身の納税にしようすることが出来るので、「金券」と同じです。

例えば、自身がコンサルティング費用として相手に10,000ペソを請求し、相手側が15%を源泉徴収した場合を考えてみます。相手が支払ってくれるのは8,500ペソだけで、あとの1,500ペソは、相手が税務署に納めてしまいます。この時、相手に「その1,500ペソを税務署に納めたという証明(2307)をください」と言えば、相手はすみやかにそれを発行しなければなりません。2307を受け取った売り主は、その証明書を、次回の法人税の納税時に、金券として使用できます。

フィリピン国内で商売をする場合は、この源泉徴収票の管理と回収が一仕事となります。自社の社員であっても、あまり関心が無いのか、未回収であっても放置するケースが多いです

相手が源泉徴収をしてくるかどうかは、相手が支払いをするまで確定しないので、源泉徴収の管理は、自身が発行したオフィシャル・レシートをベースに行うのが良いです。

発行したオフィシャル・レシートを全てエクセルなどに記入します。そのエクセルに、売り上げ、VAT、源泉徴収額、源泉徴収票の回収・未回収を記録します。

OR

ナンバー

OR

日付

売上(NET) VAT

%

VAT

WHT率 WHT

Gross 2307

ナンバー

#0134 May-15, 2014 5,000 12% 600 15% 750 4,850 #121

源泉徴収票は、ただ相手に「くれ」と言うよりも、売り主側がPDFを作成してしまい、相手に「署名をしてくれ」といった方が早いでしょう。

オフィシャル・レシートに対する勘違い

企業にとって、オフィシャル・レシートは単なる金銭授受の証拠に過ぎません。何年後かに、取引あいてとの間で「払った、払ってない」の争いになったときに、有効な資料です。しかし、経理上、オフィシャル・レシートを発行すれば、必ず売り上げに計上しなければならないというわけではありません。例えば、ある企業が、なにかの事情で他社から、保証金や着手金を預かるような場合、確かに保証金(もしくは着手金)を預かった、という意味でオフィシャル・レシートを発行してもよい。オフィシャル・レシートには必ず、売上金額を記入する欄があるので、その部分に×印でも入れておきます。「オフィシャル・レシートを発行すると、全て売り上げに計上しなければならないから、オフィシャル・レシートは滅多なことでは発行できない」と言うフィリピン人は多いが、それは間違いです。逆に、売り上げではなく、預かり金である、ということを証明するためにも、預かり金にこそオフィシャル・レシートを発行すべきです。例えば、会社に資金がそこを尽きて、社長個人のお金を会社に移動するような場合も、会社から社長に対してオフィシャル・レシートを発行しておくべきでしょう。お金を受け取ったら、とにかく、バンバンオフィシャル・レシートを発行してしまって差し支えありません。

そもそも、オフィシャル・レシートというものを、毎月税務署に提出しているのか、というと答えはNOです。フィリピン人が、あまりにもオフィシャル・レシートに対して神経質なので、私も以前は、オフィシャル・レシートを毎月、税務署に提出しているのかと思っていたのですが、税務署にオフィシャル・レシートを提出する機会はありません。内部資料として保管しておくのみです。もっとも、税務調査が入れば、オフィシャル・レシートを提示しなければならない場面が出てきますが、それ以外に、オフィシャル・レシートが日の目を見る場面はありません。監査法人に会計監査を依頼する場合、監査法人から、それぞれの取引のオフィシャル・レシートを見せてくれ、と言われることはありますが、紛失していたとしても、「次回はきちんと管理しなさい」と言われる程度です。

経理上、オフィシャル・レシートよりも、重要なのは源泉徴収です。

そもそもオフィシャル・レシートを持っていない相手と取引をすることは少なくありません。フリーランスの会計士、個人でコンドミニアムを貸しているオーナー、ちょっとした工事をしてくれるようなワーカーなど、オフィシャル・レシートを持っていない人たちばかりです。こういう人たちに、オフィシャル・レシートを出せ、と言っても持っていない物が出てくるわけがありません。そういうときは、賃貸であれば5%、会計士であれば10%(もしくは15%)、ワーカーであれば2%を源泉徴収し、パソコンで作った受領証に署名をもらい、相手のTINナンバーをきいておけば十分です。源泉徴収した額を、正しく税務署に納めておけば、経費として有効となります。

オフィシャル・レシートよりも源泉徴収にこだわる人は、フィリピンの税務を多少なりともやってきている人でしょう。

フィリピンでは銀行口座のリコンサイルは必須

銀行口座のリコンサイルとは、日本語で言えば、記録の突合です。通帳に記録された、入金と出金の記録を、一つ一つ、どれがどの取引によるものなのかを紐付けて、消し込んでいく作業です。

XEROを導入する前は、私自身もこの突合作業には大いに悩まされました。それまでは、発行した小切手を小切手帳の記録ページに記録しているのみだったので、記入忘れや記入間違いなどが原因で、不明な出金がいくつも出てきたのです。小切手は振り込みと異なり、小切手を発行したとしても相手が換金しなければ、通帳には記録として現れてきません。中には2ヶ月も換金せずに手元に置いておく人もいます。
また、発行したつもりが、相手が取りに来ず、ずっと事務の机の上に置いてあった、というようなこともあります。そして、フィリピンの銀行の多くは、通帳に小切手番号が印字されないところが多い。自分の銀行がそういう銀行だと、突合作業は、容易ではありません。一晩かけて作業しても、結局、よくわからないものがいくつか出てきて、完全に解決することができないのが普通でした。
そういった経験から、銀行口座のリコンサイル作業はXEROを使わなければ不可能、というのが私の結論です。
フィリピンではこのリコンサイル作業は、特に重要です。リコンサイルすることにより、2重払いや、未収金をたちどころに把握することができます。家賃の支払いや、顧問料の回収のように、同じ金額が続くような場合は、期ずれ(どの支払いが何月分のものであるか分からなくなること)を起こしがちですが、ソフトウェア上で、取引と通帳記録とを紐付けしてしまうので、そういったことが発生しなくなります。また、銀行の記録は、フィリピンとはいえ、かなり正確なので、資料として信頼度が高く、重宝します。

また、社員というのは、自分が損をする場合は真剣になるが、会社の損害に対してはまるで興味が無いことがほとんどです。請求書が送られてくれば、脊髄反射的に支払ってしまうし、「3日以内に払わないとペナルティだ」と言われれば、これも脊髄反射的に、その通りに支払ってしまいます。曖昧な記憶を頼りに話をする傾向も強いです。業者側も、自分たちが損をするようなことをわざわざ申告してくるようなことは無いので、相手の間違いは支払う側が発見して、指摘しなければなりません。

通帳記録を完璧にリコンサイルしている会社では、社員が不正をすることは困難です。不明な出金が出てくれば、たちどころにあぶり出されるからです。そして、普段からリコンサイルを完璧に完了させることで、社内の経理まわりの空気が、ぐっと引き締まります。

XEROのリコンサイル機能は、とにかく、お勧めです。