2010年頃から、フィリピンに進出する企業が激増しています。
民主党政権をきっかけに、日本の経営者達は「日本はもうだめだ」と言い始め、それが東日本大震災で「いよいよ日本はほんとうにだめだ」と言うようになりました。
このころから、IT、英会話、飲食業と、実に多くの分野の進出がみられました。
私自身は、現在のフィリピンブームの3年ほど前の2007年にマカティで起業・独立しました。
その前は駐在員として、1996年頃からフィリピンに滞在していたので、延べ16年間、フィリピンに滞在したことになります。
独立後は日本向けの建築図面を請け負う事業を行いつつ、コンサルタント業として今まで25社ほどの会社設立業務を行い、ビザ申請、税務申告代行などの業務を行いました。
これら業務を通して、フィリピンでの事業運営について、一応、一通りのことがわかってきたつもりであります。
ところが、知れば知るほど、ある思いが強くなってきました。それは
「フィリピンでの事業は地雷だらけだ。きちんとアドバイスできる人が横にいないと、それらを避けることは不可能なのではないか。」
ということです。
最近では、フィリピン進出を考えている人に対し
「フィリピンでの事業は、あなたが想像するよりも20倍くらい面倒くさいですよ。
それでもやるのですか。よく考えた方が良いですよ。」
と、最初にアドバイスをするようになってしまいました。
「フィリピンは人件費も安いし、英語も通じるし、そんなことはないでしょう。」と思われる方も多いです。
無理もありません。ネットには、基本的にポジティブな情報しか流れていないし、そもそも情報を提供している人が、実はフィリピンでの事業について、よく分かっていないということがほとんどであるからです。
実際に、一般的に言われている、フィリピンあるいはフィリピン人に対するコメントは、概ね下記のようなものとなっています。
- 人件費が安く、労働力が豊富であり、採用コストが低い。
- 人々が従順で明るく、一緒に仕事をしやすい。
- 命令・指示には盲目的に従うため、適切に教育を行えば、きちんと習熟していく。
- 金銭を得たいという欲求が強く、インセンティブを与える制度などに効果的な反応をする。
- 英語が通じるため、コミュニケーションが容易である。
- 独立意識が低いため、独立のリスクがほとんど無い。
- 歌、ダンス、絵(グラフィック)、外国語習得などの右脳系能力に長ける。
- 単純繰り返し労働を嫌がらない。
このあたりの情報は、いろいろなところで述べられているので、ネットで検索すれば容易に手に入るでしょう。実際、上記の通りです。これらの点を否定する人はいません。これだけを見ると、なかなかの国です。こんな素晴らしい国に、なぜ進出しないのか、真っ先に進出を検討するべき国ではないのか、と思う人は多いです。
それではフィリピンおよびフィリピン人に関するネガティブなコメントを列記してみましょう。
- 大卒者の基礎学力が低い。特に論理的思考力・理数的思考力が著しく低い。
- 遅刻、欠席、内部トラブルが多く、労務管理に苦労する。労働争議は頻繁にみられ、労働者側に有利な判決が出ることが普通。
- 1種類の仕事しかできない、あるいはしないことが普通であるため、結果として、日本で同じ事業をやるよりも、多くの人員を確保する必要がある。
- 外部と取引をするときなどのコミュニケーションが容易ではない。
- 相手と会話をするのに数日、打ち合わせに数日、見積もりに数日といった具合である。
- フィリピン人同士のコミュニケーションの精度が低く、物事を正確に伝達するのが難しい。
- 許認可、納税や社会保障のシステムが複雑で非効率である。単純な届けにも多くの書類や署名が必要となる。
- また、許認可関係は、いつ認可が下りるのか、ということが不明のまま、ただただ待つ以外になく、行程を立てることが困難であることが多い。
- 都市インフラ、物流インフラ、金融インフラが貧弱なため、想定した通りのスケジュールで業務を遂行できない。慢性的な渋滞、少し雨が降っただけで冠水する道路、不安定な電力供給、不安定なインターネット、銀行システムなど。
- フィリピン人と金銭的なことで一旦トラブルになると、関係は急速に悪化し、さらに大きなトラブルに発展することが多い。
ざっとこのような感じです。
最近、事業を開始した方々から、実際に聞いたコメントをいくつか挙げてみます。
- 「会社を設立したらほとんど終わりだと思ったら、それはただの始まりだった。シンガポールの20倍面倒くさかった。」
- 「世界各国で仕事をした経験があるが、フィリピンは断トツで訳わからない。」
- 「北朝鮮も含め、いろいろと際どいところにも行ったが、フィリピンに来たら1週間で盗難や置き引きにあい、やっていく自信を失った。」
- 「フィリピン人社員が、あまりに物を考えないことに驚いた。」
- 「毎日いろんなことが起こり、本業どころでは無い。本当にこの国でビジネスをやる意味があるのかと、毎日考えてしまう。」
- 「営業要員として日本人をおいたのに、社内の事務的な雑務で忙殺されている。」
これが実際の声です。
確かに人件費は安く、人なつこく、英語が通じ、優秀な人材もたまにいます。ここだけ見れば、完璧な国です。しかし、実際にオペレーションを行っていくとなると、それは易しいものではありません。
毎日発生する困難に立ち向かっていく根性があるのか?
そこまでしてでも、この国で事業をやるほどメリットがあるのか?
そしてそれは、あなたの会社の中の、一体誰がやるのか?
ということを、いまいちど熟考しなくてはなりません。
フィリピンに10年以上も前から事業を行っている企業の中には、マネジメントに成功し、安定した利益を挙げている企業も、中にはあります。しかしその多くは、黙して語りません。
フィリピン人はコツさえつかめば良質な労働力であることには異論はありません。仕事を共にすればするほど愛着がわく国民であることも間違いありません。ただそれには、やや特殊なノウハウと、多くの知識と、粘り必要となります。
どこにどんな問題が埋まっているのかを知っておく必要があるのです。
3年かけてコツをつかんだころには、資金が底をつき、撤退しなければならないということもあるかもしません。
フィリピンで事業を行う際に、どこに見えない地雷が埋まっているのか。なるべくその地雷を踏まないようにするには、どうすれば良いのか、といった実践的かつ具体的なテクニックについて、この記事で述べていきたいと思います。
ご一読いただき、それでもこの国で事業を行いたいという気持ちを抑えられない方は、どうぞこの国での事業にトライしていただきたいと思います。