ビッグヘッドとは

この記事は2003年頃(35歳のとき)に書いたものの転載です。物価、社会情勢等は当時のままですのでご了承ください。

He is already big head!
このビッグ・ヘッドという言葉を聞いたことがある人は相当なフィリピン通だ。
どういう意味かというと、「調子こいて、有頂天になって、言うことを聞かない。自分が良くできると思い上がっている状態」のことをいう。
こうなってしまうと、もう大変。如実に態度に表れ、何を言っても言うことを聞かなくなる。
これを矯正するのは、一苦労だ。ボコボコに打ちのめすくらいの迫力で戦わないと、なかなか直らない。そんな体力や気力のある日本人はめったにいないから、結局はクビにしてしまうほうが多いのではないかと思う。あるいは、相手の方が、腐って去ってゆく。私の経験では、ビッグヘッドが直ったことは、非常に少ない。

●フィリピン人には、この現象はよく見られる。叱ってばかりいると、Strict だの、he is mad ! だの不満を言うが、かといって誉めてばかりいると、あっというまにビッグヘッドになる。ちなみに圧倒的に男に多い。女性のビッグヘッドは少ない。
分かりやすいように、登山にたとえよう。
ビッグヘッドとは、富士山の5合目で「へへーん。富士山なんてこんなもんか。簡単じゃねーか。」という状態だ。
このとき、まだまだ先に頂上があることを、適切に示してやらないと、彼はずっと5合目を頂上だと思い込む。(日本人は3歩先を行けの法則)
日本人が理想とする状態、というのは意外に説明が難しくいもので、最後はいつも「ちゃんと」とか「きちっと」「もっと」とか抽象的な世界になってしまう。山の頂上にガスがかかっていて見えない、だけど、どのくらい先に頂上があってどんな道のりなのかを「具体的に」伝えてやらないといけないのだが、なかなか簡単なことではない。

●このビッグヘッドを防ぐ方法は、まず第一に最初が肝心。
厳しかった人が、だんだん寛大になるというのは、人間は受け入れやすい。寛大だった人が、だんだん厳しくなるというと、人間は抵抗感を感じる。
だから、入社当時は、ガッツンガッツンと崖から蹴落とすくらいのつもりでしごく。こうやって免疫を作って、「やばい所に入社してしまった」くらいに思わせる。誉め言葉なんてのは、正社員採用してからでいい。それまでは直接口も聞かない。
具体的には最初の仕事で、徹底的に間違いを指摘する。言葉は悪いが、自分の経験や技術のなさを思い知らさせる。今までローカルの会社での経験や知識は何の役にも立たないどころか、無いほうがましだということを思い知らせる。
実際に、いくら大卒だからといって、最初から日本向けの業務に使える人材は全くいない。どこの日系企業でも、事情は同じはずだ。全部中古のハードディスクだと思えばいい。最初にする作業は「領域確保」そして「フォーマット」だ。
ちなみに、ローカルスタッフがローカルスタッフを厳しく叱ることを期待してもなかなか難しい。他人を叱れるスタッフがもしいるならば、会社の宝だろう。

●3年前は私の鼻息も荒かったので、今考えると恥ずかしいくらいに、スタッフを厳しく叱った。
私がある人を叱っているのを見て、それを見た別の人が「あんなふうに叱られたくない」と泣きべそをかくということもあった。
新入社員が「それは私は知ってます」と言った時に、「なんだとこのやろう、I know なんて言う言葉は使うんじゃねえ」と言ったこともある(日本語で言ったわけではありません)。
ちなみに「会社の中でBecuseを使うな」と決めようと思ったこともあったが、これは実際にはやらなかった。「Because」の代わりに「Since」を使わせればいいと思うのだ。こっちのほうが響きがいいし、因果関係がより明確で、気分がいい。自分の会社を作ったら、こういうルールにしよう。

●誉めるとか、叱るとか、結局そのバランスがうまくいかないと、変な風になってしまうから気をつけよう、というお話なのだが、こういう話はいわゆる「リーダーシップ論」として日本の本屋へ行けば、いやというほど並んでいる。
面白いのは、こういった書籍に書かれていることは全て同じで、全て正しくて、しかもそれをフィリピンで実践した場合、その効果が日本でやるより非常に短時間に、しかも強く現れるということだ。(ここがフィリピンの醍醐味である。)
逆を返せば、日本から赴任してきてリーダーシップを発揮できなかった人は、日本へ帰るとさらにリーダーシップをできない。つまり、フィリピンでダメダメな日本人は日本へ帰るとさらにダメダメとなる。