フィリピン人従業との面接の効果

この記事は2003年頃(35歳のとき)に書いたものの転載です。物価、社会情勢等は当時のままですのでご了承ください。

●今の会社では、年に2回、社員の査定を行い、ボーナスを2回支給している。なので、年に2回、スタッフと面接する必要がある。
実は今週の月曜日が面接実施予定日で、私が出席して進行役をする予定だったのだが、私は腰痛のため会社を休んでしまった。
翌日出社して、面接は延期にしてくれたかなと思ったら、なんと社長と副社長とローカルマネジャーだけで、全員の面接を終えてしまっていた。
つまり、実際の業務を見ていない人たちだけで面接を終わらせてしまっていた。
「ま、いいか、俺もどうせ辞めるんだし」とあまり気にしていなかった。

●ところが、リーダー2名に、
「おい、面接は終わったんだろ、どうだった?」
と言ったら、2人とも眼を合わせて浮かない顔をしている。
「どした?」と聞くと
「面接にはフィリピン人を入れないでくれ」「そうだ。日本人だけでやってくれ。」「日本人の社長が質問して、ローカルマネジャーが答える。それで面接は終わっちゃうんだ。」
これには私も笑ってしまった。ありありとその光景が想像できるからだ。
「んじゃ今からもう一回やるか」と結局丸1日かけて私1人で30人の面接をした。
余談はこれくらいにして、今回はこのインタビューについて考えることを書いてみたい。

●まずインタビューとは、彼らの考えることを全部聞きだすことが最大の目的である。心の奥の方でくすぶっていることを吐露させることだ。であるから、そのために不適切な人(上記のローカルマネジャー)は、インタビューの場にはいないほうがいい。
「何でも言えばいいのに言わないのは、言わない方が悪い」のではなく、「言わせる雰囲気を作らない方が悪い」

●次に家族のことから話させる。これでしゃべらないやつなど誰もいない。
「誰と住んでるの?」に始まり
「お父さんの仕事は?」
「子供はそろそろ学校へ入るのか?」
「君は誰をサポートしているんだ?」
「家族のシリアスな問題は何かあるか?」
というようなことだ。これでどれだけお金に困っているかの金欠度があっという間に分かる。両親兄弟全員働いていて、全くお金に困っていない人もいれば、若いのに家族全員養っているやつもいる。父親が亡くなっているとか、子供が最近生まれたなどの情報もわかる。
金欠度が高い者は、当然、高い給料を欲しがるし、そのためにはなんでもやる!という姿勢を持っているのが普通だ。
実は今回は初めて私一人だけでのインタビューだったので、このように家族のことまで聞けたのは今回が初めてだった。
こういった質問をしていると、彼らの生活像が面白いくらいにくっきりと浮かび上がってくる。
いくつか例を挙げよう。

  • ケースA:プロビンスで土地の所有権を争っており、そのために弁護士に支払うお金が月に5000ペソ。ここ1年で払った額は5万ペソ。すでに貯金もそこをついた。海外に行かなくては、生活ができない。無料の国選弁護士を探しているところだ。
  • ケースB:子供を3ヶ月前に産んだが、自分の家が狭いので両親と一緒に住めない。かといって旦那も働いているので子供を平日は両親にあずけ、週末しか子供に会えない。
  • ケースC:子供の面倒をみるヤヤが来るまで家を出られないので、毎週月曜日はどうしても遅刻をしてしまう。
  • ケースD:妻が、有り金を全部、妻側の兄弟や親の方のサポートに使ってしまい、自分の家の生活費が足りない。
  • ケースE:仕事で残業が多いので、家に帰るともう子供が寝ている。自分になつかない。
  • ケースF:実はいわゆるスクオッターエリアに住んでいる。

こういった話をきくにつけ、彼らの生活は我々が思う以上に大変なんだ、とあらためて感じてしまった。そして、家庭の事情も知らずに、「何が何でも時間どうりに会社に来い」「仕事なんだから残業してでも終わらせろ」「この給料で十分だろう」というような日本流の文化を押し付けることはあってはならない、と感じた。
日系企業の駐在員で社員の家族構成や抱えている問題に関知している人は、あまりいないと思う。であるならばインタビューというのは、誠にいい機会なので、通りいっぺんの面接はやめて、家族のことから話させるのもよいのではないかと思う。

●フィリピン人が面接で要求してくることというのは、いつもパターンが決まっている。

  1. 仲間の結束を高めるためになにか催しをやって欲しい。
    スポーツ大会とか、定例ミーティングとか、パーティとかそういう類のことをやって、お互いをよく知り合いたい、ということである。そんなこと勝手に遊んで、勝手にやってくれよ、と思うのだが、意外にできないらしい。
  2. レクチャーなどをやって最新の知識やテクニックを教えて欲しい。
    これが一番悩む要求だ。なぜならレクチャーというのは用意するのが大変な割に、すぐに終わってしまう。
  3. 制服とか、ジャケットとか、会社のロゴの入った何かを作って欲しい。
    これもやはり、会社の帰属意識を高めて、盛り上がりたい、ということなのだろう。フィリピン人は基本的に自分の会社のロゴが入ったグッズが大好きである。
  4. 給料の話
    みんな「I’m shy」とか言いながら、もっと給料を欲しいと言う。だが、いくら欲しい?と聞くと、ものすごく嬉しそうに、「Up to you」という。従業員に、直接いくら給料が欲しいか聞く日本人はあまりいないと思うが、基本的には期待させるだけなので、やめたほうが無難ではある。
  5. 交通費が値上げされているので、夜のタクシーアロワンスを増やして欲しい。

さて、ここで私は、「このような面接を通して上がってくる要求には、なるべく迅速に答え、基本的には採用することを真剣に検討するべきである」と言う意見を持っている。
なぜなら、彼らから上がってくるリクエストは、実はそれほど大それた者はないことが多い。割と小額の予算で実現できるものばかりだ。ところが、実現してしまえば、社員はものすごく喜ぶ。「自分達のリクエストが通った!」と感激するわけだ。面接でいろいろ話してよかった!と思うわけだ。
これは少ない経費で経営側の評価を上げる又とない機会である。会社としてはこの機会を逃すのはもったいない。
仮に、1枚150ペソのロゴ入りTシャツを作ったことによって、会社の労使の関係が良好に保たれ、組合に発展すると言うような事態を防げるのであれば、1人150ペソの出費など無視できる金額である。
Tシャツだけで組合が防げるとは私も思わないが、仮に上記5項目のうち、給料を除く4項目を実現したとしても、たいした金額ではない。そのかわり、5項目のうち、4項目を実現したとしたら、そのインパクトははかり知れない。
50人分のロゴ入りジャケットにしたって、日本人のコンドミの1か月分の家賃で出来てしまう。

●フィリピンは小額のカネでも、結構、使い道が多い。私が面白いと感じる大きな理由のうちの一つだ。