フィリピン人従業員は評価されることを好む

この記事は2003年頃(35歳のとき)に書いたものの転載です。物価、社会情勢等は当時のままですのでご了承ください。

●フィリピン人は、上司から評価を受けるのが大好きだ。
今回、あることをきっかけに、その確信を強めた。

●そのあることとは、全員に自分がどれだけの経験を積んだのかを、棒グラフで示した紙を配布したことだ。
我々が書く図面には約15種類あり、RC構造と鉄骨構造に分ければ30種類となる。
さらに使用するソフトなどで若干の仕事が加わるので、ざっと40種類くらいの
仕事がある。その全てについて、経験地ゼロから10までを棒グラフで表した。
漫然と仕事を与えていると、「階段詳細図を全く書いたことがない人」とか、
「鉄骨造ばかりやっている人」というのが出てきてしまう。
最悪なのは、ある種類の図面を書ける人が、実は2人しかおらず、いつもその2人に頼り切っていた、というような状況だ。
このような事態を防ぐと同時に、入社して1年以内に基本的な図面を一通り経験させて、はやく一人前にし、いつ誰が退職してもあわてないで済むようにと考えたのがこの経験値シートだ。基本的に毎月、更新して配布しなおす。
経験値シートとはいえ、内容は結構露骨だ。
「あなたのスピードは平均を10とすると7です」
というようなことまで書いてある。つまり通信簿そのものだ。

●配布する前は「結構ショックを受けるやつもいて、逆効果かな 。あまり良くなさそうだったらすぐやめよう」と心配だったのだが、それは全くの杞憂だった。
紙をもらったとたん、みんななぜかはしゃぎだしたのだ。
お互いに見せ合って、キャーキャーやりだしたのだ。
「スピードの最高値はいくつだぁ」と言っているヤツもいる。
それぞれの紙には、太い赤線で「何月何日までにここまでの図面を経験すること」と書き込まれているので、それを食い入るように見ているのもいる。
その光景を見て、ほっと胸をなでおろす。
彼らの表情から見て、完全に食いついたのがよくわかった。

●彼らは基本的に、自分についての評価を受けるのが大好きだ。
以前にもこういうことがあった。
まだ15人ほどしかいなかったときに、いつもボーナスの紙を配布するときに、日本人が各スタッフそれぞれにあてた10行くらいの「コメント」を配布していた。
これは非常にスタッフに喜ばれた。
家に持って帰って奥さんに見せる者。
いつもかばんに入れて持ち歩いている者。
ボーナスの金額よりも、その手紙の内容の方が気になる者。
こういうことは普通の会社ではやらない、だから嬉しい、と言われたこともある。
褒め言葉をなるべく多く書いたが、中にはキツイ言葉も結構書いた。キツイいことをかかれたものは、数日間黙り込む。
書かれた言葉は、みな、忘れることなくずーっと覚えている。

●しかし一人一人にコメントを書くというのは、実は大変な作業である。
なぜなら普段から良くスタッフを見ていないと、全く書きようが無いのである。コメントを書きにくい目立たないスタッフなども、とにかく書かなくてはならないから、普段からよく見るように気をつけるようになった。

●フィリピン人が、なぜこんなにも「評価を受けること」が好きなのかというと、「自分の方に目を向けてもらっている」という満足感からではないかと思う。
また、人間はだれでも、「本能的に自分のことに興味を持ってくれる人を好む」という性質がある。(この辺は、名著「人を動かす」にクドクドと書いてある。)
つまり、相手に通信簿を渡すことは、相手に「私はあなたを見ていますよ」と言っているのと同じことであり、渡された相手は自分のことを見てくれている上司に好感を持つ(と予想される)。これは組織に大変良い影響を与えると思う。
評価ではなくても、例えばあるスタッフの物まねをする、というようなことも、相手に大変喜ばれる。理屈は同じことだ。「お前に興味を持っているぞ!」ということを、示すことは重要だと思う。

●評価というとかなり堅苦しい感じを受けてしまうのだが、ここはフィリピン風に、なるべく楽しくやるように心がける。