拠点の規模をどのように拡大するか

この記事は2003年頃(35歳のとき)に書いたものの転載です。物価、社会情勢等は当時のままですのでご了承ください。

ある日系企業の駐在員の方が、私達の事務所を訪れてきた。いわく
「日本の設計部門をフィリピンに移管したいので、差しさわりの無い範囲で相談にのってくれないか」
ということだ。
今まで何社かの方が、私達の事務所を見に来てくださったが、私はこういう立ち上げ話に関わるのがとても好きだ。わくわくする。

幹部候補生の作り方

今回の話の中で、結構盛り上がった話題は
「まず10名くらいを雇ってその中から数名を幹部候補生として日本へ送り、みっちり教育し、戻ってきたらそのメンバーを中心にトレーニングして、人数を徐々に増やしていく方法」
がいいかどうか、というものだった。
私はその方式はあまりよくないと思う、といつものクセで断言してしまった。
理由その1その人物が幹部としてふさわしいかどうかは、1年くらい使わないとわからない。リーダーシップの有無は、集団に放り込まないとわからない。理由その2幹部として育てるのにふさわしい人物に出会う確率は20名に1名程度であり、10名の中から数名を選んでしまうと、当たりが1名、はずれが数理由その3日本研修が終わり、一旦幹部候補生にしてしまうと、後で降格させることが出来ない。第2陣や3陣の中に、もっと優秀な者を見つけてもポストが不足し、結果として実力と見合わないポジションという状態が、立ち上げ早々から発生してしまう。これではせっかくの優秀な人間が辞めてしまう。
理由その4幹部候補生として英才教育をしても、元をとる前に辞められたら水の泡である。
私達の会社も日本へ研修生を送っているが、送った者を幹部にしたのではなく、幹部に値する者を日本に送った。意図してそうなったわけではなく、たまたま研修を導入したのが遅かったので、そうなっただけなのであるが、自他共に認める人材を送ったのは、結果的には良かった。「なんであいつが行けて、俺が行けないんだ」というような不満も出ず、チームワークが崩れることもなかった。私達の業務は、チームワーク命だから、1人が知識を身につけても、チームワークが崩れては元も子もない。

日本語の教育について

「何名かのスタッフに集中的に日本語教育を施し、日本人を介在させずに日本向けの仕事をする」ことについて。
これも私はつい断言してしまったのだが、私の考えは「フィリピン人に日本語を教えても、時間の無駄」である。
理由その1日常会話が問題なく出来たところで、業務とは別次元である。専門的で難解な単語の羅列を正確に理解してもらう必要がある。2重否定などの指示も正確に読んで欲しい。
理由その210回のうち7回があっていても、3回が間違っているのなら結局全部に眼を通す必要があり、あまり日本人の業務軽減に寄与しない。1箇所だけでも奇妙な間違いが、そのまま顧客のところへ流れると、失う信用が甚大である。
理由その3手書きの文字が読めなければあまり業務に役に立たない。手書き文字を読ませようとするには、相当高度な経験が必要である。1年程度の訓練では、ある手書きの文字が「平仮名なのかカタカナなのか数字なのかアルファベットなのか」さえ判断できない。
理由その4英才教育をしても、元をとる前に辞められたら水の泡である。
理由その5辞めさせないために高給を払うと、他のスタッフとのバランスが取れない。
理由その6業務スピードが落ちる。フィリピン人スタッフに日本語作業を任せることにより、3時間納期が余分にかかるとするならば、日本人が10分で終わらせたほうが、トータルで考えてプラスである。
出来ない理由をたくさん列挙してしまったが、実際に今まで、業務時間後にスタッフを集めて日本語を教えたり、日本語学校に通わせたり、数名を日本研修に行かせたりした結果としての意見である。日本語を教えるための本を買って、その通りに教えてみたりもしたのだが、目に見えた効果はなかった。
もちろん、使う単語が限られているとか、いつも決まった書式で指示を受け取るとかいう業態ではもちろんこの限りではないだろう。また、日本語能力の高いものに、3万ペソとかの高給を払える会社も中にはあるだろう。しかしながら、日本にいる上層部の人が「そんなもん、教えこんで、日本人は撤退すりゃいいだろ」というほど簡単なものではない。質とスピードをトータルで考えないと、日本人どころか、フィリピンの事務所自体を撤退せざるを得ない状況になってしまう。
他にも「社内に通訳を置くことの是非」というのもあるのだが、また2画面分の文章を超えてしまいそうなので、これについてはまたいつか。