フィリピンでは給料が最重要?

この記事は2003年頃(35歳のとき)に書いたものの転載です。物価、社会情勢等は当時のままですのでご了承ください。

●「フィリピン人は、給料が少しでも高い所を見つけるとすぐに転職する。なんとか転職を食い止める方法はないか」
これはフィリピンの日系企業の多くの経営者が抱えているだろうと思われる。
まず、自分の会社のスタッフをレギュラーではなく、コントラクトで契約している場合は、転職されて当然だ。会社側はリスクを負わないコントラクト契約をしておきながら、転職させたくないと言うのは虫が良すぎるのであって、こういうケースは論外だ。
では正社員雇用しているにもかかわらず、転職で困っているという会社があるとしたら、その理由は給料が他社より低いせいではなく、その会社に『魅力が無い』からに他ならない。魅力が無いから転職という選択肢が思い浮かぶのあって、給料が他より低いという理由だけ転職してしまうようなフィリピン人は、実はほとんどいない。魅力が無いから逃げられたのに、それを給料のせいにするのは実は経営者のいい訳である。(どことなく、男女の関係に似ている?)

●では彼らにとって魅力のある会社とはどのような会社かというと、私はこのように思う。
・ 仲間との人間関係が楽しい。嫌なやつがいない。
・ 経営者とのコミュニケーションがよい。
・ 給料が良い・仕事にやりがいがある。
・ 給料の遅配、規模縮小の噂がなく、将来的に安定している。
などだ。中でも一番重要なのは、「仲間同士の人間関係が楽しい会社」であり、給料の多い少ないなどは、これらに比べたらはるかに重要度が低い。
これらが解決された状態を一言で総称すると「いごこちがいい」という言葉になる。フィリピン人流に言えば「ハッピー」だ。

●ところで、名著『ビジョナリー・カンパニー2』によると、次の3つの円が重なる時、自分はその分野で偉大になれる可能性を持っていると述べている。
その3つとは
 1:その仕事が好きで情熱が持てる
 2:その仕事に関する十分な知識・経験を持っている。
 3:その仕事で十分な報酬が得られる。である。
私なりの解釈では、この3つを自問自答し、全てYESなら、その仕事で偉大に慣れる可能性があるので、その仕事を続けて全力を尽くすがよい、もしNOがあるなら、そのNOをYESに変えることさえできれば、偉大になれるからあきらめずに頑張れ。逆に、NOが2つも3つもあれば、さっさと仕事を変えなさい、と読める。
さてフィリピン版3つの円を考えてみると
 1:職場が楽しい。
 2:その仕事で十分な報酬が得られる。
 3:その仕事が好きで情熱が持てる。(=適切な動機づけがある)となる。異なる点は、「知識・経験」という項目がフィリピンにはなく、替わって「職場が楽しい」という項目があるということだ。
このように考えると、給料も大事であるが、それと同じくらい「職場の楽しさ」「仕事への情熱=動機付け」も大切であり、経営者が給料のことに悩むのと同じくらいこの2つについても頭を使わなければいけないということができる。
逆に3つのうち2つさえ満足させることができれば、スタッフを会社に引き止めておくことは充分可能であるということである。

●仮に、ある優秀なスタッフに、会社にたくさんの友達がいて、毎日が楽しいとする。彼はリーダー的な仕事を任されるなどでやりがいを感じていて、さらに経営者との関係も割と良好で、ただもう少し給料があれば・・・と思っている時に、転職など考えるだろうかというと、あまりそういうことはない。フィリピン人はこれら全てを断ち切ってまで、給料が高いが見ず知らずの人しかいない他社へ移ろうと考えるほど、リスク・テイカーではないのだ。
仮に給料だけに不満があるのであれば、いきなり転職してしまう前に面接などで少なくとも「もう少し給料が欲しい」という意思表示をするはずである。
つまり、給料が低くて転職がなくならない、という時は、給料ばかりに目を向けるのではなく、「職場の楽しさ」「仕事への情熱=動機付け」へも目を向けてはいかがだろうか、ということである。

ただし、どんな会社でも唯一、絶対に勝てない強敵がある。それは「海外出稼ぎ」だ。