フィリピンで事業を行う醍醐味とは

この記事は2003年頃(35歳のとき)に書いたものの転載です。物価、社会情勢等は当時のままですのでご了承ください。

今回はフィリピンの醍醐味とは何だろうか、という話です。
私は日本の友人などに、フィリピンのどういう所がいいか、と聞かれたら、普段は分かりやすいところで、「海が綺麗でダイビングがいい」「物価が安く、生活が楽」「メイドや運転手を雇うことが出来ていい」「会社まで徒歩で行けるのがいい」「自分の時間がとれるからいい」と言うようなことを話します。
ゴルフやカラオケが好きな方であれば、「毎週格安でコースに出られる」「ノリノリのカラオケやゴーゴーバーがたまらん」というのもでてくるでしょう。
この辺で、適当に話を膨らませておけば、話題としては結構楽しいものになります。

●でも私が本当に「ここが一番!」と感じるのは、上に挙げたようなどれでもなく、それは
「似非(エセ)社長業の楽しさ」
これに尽きるのではないでしょうか。
つまり、私のような日本では部下もいないペーペーの社員が、ここへ赴任すれば、3ランクくらい上がって、部長や社長くらいの存在になりえることができる、という楽しさのことです。

●私は今回が2回目の赴任ですが、1回目の赴任のときは約7年前、28歳でした。そのとき、3歳くらい年上の方が、私がフィリピンへ赴任になると聞いて、「おまえ、あそこ行きゃ、天下取れるぞ」と言いました。その人は、フィリピンへ3回ほど出張していたので、どういう所であるかはなんとなく知っているのでした。
(天下とるって何だ?)
と思いつつ、私は赴任したのですが、天下を取るどころか、自分の居場所も見つけられず、2年間という不毛な時間を過ごして帰ってきてしまいました。

●2回目の赴任では第1号に書いたような『プチ・プロジェクトX』を抱えてやって来ました。ここで初めて、私はフィリピン人とまともに向き合ったわけです。でも当初は、一人のサラリーマンとして、与えられたミッションを実現すべく、日々ひたすら突き進んでいただけでした。
すると2ヶ月もたつと、「お前は俺たちのボスだ」というような声がスタッフから聞こえるようになりました。
駐在している方なら、フィリピンにおける「ボス」という言葉の持つ重要性などについては、言うまでもないことなのですが、当時の私にはそれさえもわかっていませんでした。「俺はこの仕事を立ち上げに来ただけで、別にお前らのボスなんかじゃない」と当時は言っていたのですが、どうも様子が違う。いつのまにかスタッフが全員、自分の方を向いていることに気づいたのです。

●フィリピン人は、大変に素直で、忠誠心が高く、指示・命令に従順で絶対服従の態度を取る、と一般的に言われていますが、これはその言葉の通りであります。とにかく、全員が直属ボスの一言で動くようになるのです。この現象は、つい2ヶ月前まで人にコキ使われまくっていた会社員にとっては大変な事件です。
・ 数十人のスタッフが自分の指示で一斉に動く。
・ 仕事のやり方、考え方、生活態度まで、全て自分のコピーが出来上がる。
こういったことが、フィリピンの醍醐味であると思うのです。
社長として赴任するのであればまさに、言葉の通り『社長』です。一生のうちに社長になれるサラリーマンはほとんどいないにもかかわらず、それが出来るわけです。
社長ではなく、1部門のまとめ役として赴任するとしても、最低でも10人の部下はつくはずです。であれば、10人のボスとなるわけだから、これだけでも相当すごい。10人の部下がつくなんて、日本なら50歳くらいにならないと無理。それどころか、大半の人は部下なしで一生を終えるのではないでしょうか。

●経営面でも、スタッフの採用、評価、給与の決定、組織の組み立てなどにも参画できるのですから、こんなに面白いことはありません。
私は10年近く建築設計の仕事をしてきたのですが、建物をデザインするよりも組織をデザインするほうが100倍以上楽しいと感じました。世の中に、こんな世界があるのか!と思ったほどです。日本にこもっていたら、知らずに死んでいたことでしょう。
余談ですが、ある本で、『海外赴任の話を絶対に断ってはいけない』というのを読んだことがあります。私は、本当にその通りだと思います。

●実は、ここまでは第1の愉しみであり、醍醐味はこれだけでは終わりません。
自分の息がかかったスタッフが、だんだん成長し、組織が変化を始めるという第2の愉しみがあるのです。そして、
「打てば響くフィリピン人」
この言葉が自分の口から出てくるようになったときに初めて、
「フィリピン最高!帰りたくない 」
となるわけです。

もしフィリピン赴任を言い渡されそうな人、あるいは言い渡されて不幸にもここへ来てしまった人は、ここに書いた醍醐味を思う存分に味わって帰っていただきたい、と思うのです。どうせ、日本から離れているのですから遠慮は要りません。フィリピンのいいところはゴルフとダイビングばかりではないのです