負傷兵は要らない

この記事は2003年頃(35歳のとき)に書いたものの転載です。物価、社会情勢等は当時のままですのでご了承ください。

●ベトナム戦争で使われたクレイモア爆弾というものがある。敵が通りそうなところにこっそりとセンサーを仕掛けておいて、足などで引っ掛けると爆発し、中から数百個のパチンコ玉みたいなものが出てきて、相手に重傷を負わせるというものだ。「重傷」であって「殺さない」というところがこの爆弾のミソだ。10人の負傷者を発生させることで、その治療・運搬にあたる10人の健全な兵士の兵力まで奪おうというものである。

●3年間でスタッフの募集と採用を5回ほど繰り返してきた。ひとたび新聞に広告を載せれば、100人 150人の応募者が集まる。その中から毎回、6人 8人を選ぶ、ということを繰り返し、ようやく40人ほどになった。

●採用しながら私たちが学んだ鉄則は、「負傷兵は要らない」というものだ。

私たちは図面を書く仕事なので、1人の負傷兵がへんてこな図面を書いてしまうと、その人が書いた図面を直すために健全なスタッフが1名かかりっきりになってしまう。すると1名分のロスではなく、2名分のロスになってしまうのである。発見しやすい間違いであればよいが、なかなか発見しにくい間違いを「盛り込まれて」しまうと、発見するのにも一苦労である。発見できれば良いが、それが発見されずに顧客の手にわたってしまうと、それは会社としての信用を失墜し、大きなロスとなる。

最初の頃は、
「まぁ、彼は給料も安いし、雇っておくか。」「雇っておけば、いないよりましでしょ。何か出来るでしょ。」
こういった考えもあったので、割と気楽に採用したりしたのだが、3回目くらいからは、これが間違いだと気づいた。「いないよりまし」ではなく「いない方がまし」というスタッフを雇ってしまっていたのである。夜中に、変な図面を発見してしまい、「くそーあの野郎!こんな線引きやがって、直す方が大変じゃねーか!」と、何度もはらわたが煮えくり返ったのを覚えている。

●これとは反対に、フィリピンの道路工事の現場や建設現場では、とにかく人件費の安い労働力を集めてやらせているだけなので、見たとおり、道路はでこぼこ、建物の質も見たとおりのものである。

●では採用のときに、何を一番重要視するかというと、野球でいう「肩と足」である。プロの入団テストでは、まず、短距離と遠投の試験をする。こればっかりは練習で鍛えられないからだ。
採用試験で、誰が「いい肩と足」を持っているかを見抜くことが出来れば一番よいわけだ。逆に言えば、今その人が持っている知識や経験は、全く考慮しない。知識や経験などは極端なことを言えばゼロでもよい。知識・経験はゼロでも良いから、足と肩がいい者を採りたい。

●何をもって肩がいいとか足が速い、とするかというのは業種によって違うと思うが、私が重要視するのは「姿勢」と「性格」だ。
姿勢について言えば、
「麻雀は背骨で打て」
という格言がある。同じように
「CAD図面は背骨で描け」
というわけだ。背骨が伸びていて、キーボードとマウスに置く手の格好が良い者は、急激に伸びるのである。