安い人件費の国には、安いなりの理由

この記事は2003年頃(35歳のとき)に書いたものの転載です。物価、社会情勢等は当時のままですのでご了承ください。

●しばらくメルマガを書いていて、なんとな行き詰まっていたが、もっと気楽な気持ちでもいいから、続けて書けというご意見もあったりして、すこし気楽に書いてみようと思う。
なので、今日からはフィリピン人の『傾向と対策』ではなく『傾向』。結論や対策は期待しないで下さい。ただし登録されたメルマガタイトルは変えられませんので、そのまま。

●印刷して持って来い
フィリピン人と日本人の違いを、一番象徴的に表すことはなんだろう。
私がすぐ思いつく、『オフィスのなかでよく起きるフィリピンっぽい出来事』といえば、あるフォルダの中のファイルを一式印刷してもって来い、とスタッフに頼んだ時に、多くの人間が「順番めちゃくちゃ」「印刷忘れあたりまえ」「上下もたまにぐちゃぐちゃ」「ホチキス止めは、端っこが揃っていない」という状態で、持って来ること。
1年2年、自分の下で勤めた社員ならこういうこともないが、新入社員の99%は多分、こんな状態だ。
日本人というのは『そろえる』ということに関しては、古くから異常なくらい神経質で、和室の畳の線と柱の線と天井の線が、キチっと通っていないと気持ちが悪い。
(愛知県にある、谷口吉生設計の豊田市美術館に行ってみよう。視界に入るありとあらゆる「目地」が通っている。その目地を通すことに、大変な労力が使われている。)
順番・上下を揃えずに持ってきても平気なのは、もう「そういう国民である」としかいいようがない。子供はそういう教育をずっと受けてきており、その先生も親もそういう教育しか受けていない。社会全体がそういう感覚だから、別に、誰も不自由しない。
道路はデコボコ、コンクリートの梁はぐにゃぐにゃ。書類にあけるパンチの穴の間隔とファイルの穴の間隔が違っていても気にしない。
国全体がテキトーなので、その結果として一人当りGDPはたったの10万円しかない。
つまり、「大学出のフィリピン人が月に2万円しかもらえないのは、印刷物の順番を揃えて持ってくることができないから」と言い換えられる。

●ゴミの入った水
自宅で買っている飲料水のボトルに、大量のゴミが浮遊していた。
「ゴミが入っているから、もう買わない」と業者に連絡する。
すると、電話にでたフィリピン人の答え
「ああ、新しいのと交換するから、そいれでいいでしょ?何が問題なの?」
もう絶句だ。
ゴミが浮遊したからには生産工程になにかとんでもない問題があるはずであり、今後、再び同じ事が起きないとは限らない。だから業者を変える必要がある。しかし当の本人は、新品に替えさえすれば問題解決と思っている。
これはフィリピンの随所に現れる「原因究明?なんのこっちゃ病」だ。
トヨタでは「なぜを5回」だが、フィリピンでは「なぜ?そんなこと考えてどうすん
の」である。

●さてさて、こういう発展途上国に自分の意志で進出し、安い労働力のウマミを吸っておきながら、「フィリピン人はだらしない」「フィリピン人はだめだ」とブツブツ言う企業人はかなり多い。
ランドマークへ行っては「レジが遅い」と文句をいい、セブンイレブンで物を買っては「日本なら10秒で全て終わりだ」と文句をたれる奥様もいるだろう。
ちょっと待て。
安い人件費の国には、安いなりの理由がある。
もし、ランドマークのレジ係が、オーストラリアみたいに一人で全部こなしてしまったとしたら、その時点ですでに、フィリピンで人件費削減などはできなくなる。当然、メイドやドライバーを雇って、余裕の生活をすることもできなくなる。
つまり、フィリピン人が効率の悪い仕事をしてくれているからこそ、国全体の経済レベルが低いままであり、そこにウマミを見出だした各企業が入り込むことができ、メイドを雇って快適な生活をすることができる。

●だから、上記のような事態に出くわしたら、
「落ち着け、落ち着け。安いんだからしょうがない。一つ一つ教えればいい。」
と3回唱える。
日本人とは、ありとあらゆるバックグランドが違うのだ。