一度雇ったら家族と思え

この記事は2003年頃(35歳のとき)に書いたものの転載です。物価、社会情勢等は当時のままですのでご了承ください。

●日本では、自分が人を雇うという機会など、社長でもない限りまずない。ところがフィリピンに住むと、人を雇うということに頻繁に遭遇する。会社では私は社長ではないが、スタッフは50名くらい抱えている。
雇用する側として、絶対に忘れてはいけないと思っていることがある。それは雇用側が思っている以上に、「彼らは雇用者に家族を含めた生活の大部分を委ねている」ということだ。言い換えれば、向こうは、「自分は家族の一員として認められた」と思っているということだ。

●例えば、メイドやドライバーがお金を貸してくれと言ってくることは多い。当然、日本人はお金をたくさん持っているから、お金持ちのところに頼みに来ているだけだ、というような単純な図式などではない。「ダメモトで何でも頼みに来るフィリピン人はけしからん」という日本人は、認識を変えたほうが良い。
メイドやドライバーにとって、雇用者は、家族に何かがあったときに守ってくれる、大きな大木のような存在なのである。日本人にはない感覚なのである。

●会社で社員を雇うと、6ヶ月の試用期間の後、通常、正社員として迎え入れられる。フィリピン人は、この「正社員」という地位をことのほか喜ぶ。そこには、「これで収入が安定だ」というような打算的な感覚は微塵も感じられない。あるのは、「これで家族として迎え入れられ、心から嬉しく思う」という非常に純粋な感覚である。
彼らにとって、会社は大きな家族である。これは会社の規模が数百人になろうとも、これは変わらない。

●つまりフィリピンで人を雇うときは、「俺はこいつの家族の面倒まで見きる」くらいの気概が必要だ、ということである。単に契約書を取り交わすだけのドライな関係でももちろん雇用関係は成り立つだろうが、こういう会社はフィリピンでは長続きしない。
また社員のことを守ることが出来ない社長は社員から総スカンを食う。こういうところを、フィリピン人は非常によく観察している。

●私は常に会社の机のなかに10万ペソくらい入れている。社員からお金を貸してくれと言われたら、そこから喜んで現金を貸すようにしている。
どんなことで借りにくるかというと「家の2階の床を建設するのにお金が必要」2万ペソ「家に水道を引くのでお金が必要」6000ペソ「研修で日本に行っている間の家族の生活費」8000ペソ「理由不明」5000ペソ「退職し、退職金が出るまでのつなぎ融資」3万ペソというようなことだ。
証文などは特に取らないが、戻ってこなかったことは一度も無い。もともと遊んでいる金だし、これくらいの金額で喜んでもらえるなら、こっちにとっても嬉しいことではないか。

●通常フィリピンに日系企業が進出する際、「日本人1名につきフィリピン人何名」という計算を必ずする。各社を平均すれば、業種にもよるだろうが、だいたい25名くらいになるのではないだろうか。
この数字は、「家族として何名まで面倒を見れるか、という人数」と考えると面白い。金銭的な補助だけでなく、洗礼式、結婚式、葬式、誕生日などに呼ばれても、断ることなく行くことのできる人数はだいたい25名とか30名ではないかと思うのである。