ローカルマネジャーには細心の注意を

この記事は2003年頃(35歳のとき)に書いたものの転載です。物価、社会情勢等は当時のままですのでご了承ください。

●例えば日本から、新社長として赴任してきたとする。
一番頼りになるのは、他の日本人、あるいは、ローカルマネジャーだ。
特にローカルマネジャーは通常、全てのスタッフのことを把握しており、フィリピンの法律・習慣・風習にも精通している。日本人のやり方もよく理解しており、片言の日本語を話す者もいるだろう。大きな会社になると、ローカルマ
ネジャー無しには会社の運営は難しい。
数年で交代する社長とは違い、ローカルマネジャーはずっとそこにいると言うのも強みだ。会社の歴史、過去に起きたことを全て知っている。
日本人の社長はこのローカルマネジャーとの距離のとり方には、常に注意を払わなくてはならない。

絶対に、情報のボトルネックをつくらないこと

多くのスタッフの意見が全て1人のローカルマネジャーに集まり、日本人の経営者が、そのローカルマネジャーからのみ全ての情報を得ている=ボトルネック状態=ようなところは非常に危険だ。
貴重な意見が上まで上がらず、都合の悪い意見はローカルマネジャーでカットされる。
下からの意見が曲げられる。
何を言ってもローカルマネジャーが押さえこむから、自由な意見が出にくくなる。
このようなとき、ローカルマネジャーは「俺がいなくては日本人の経営者は、会社で何が起きているか、何も知ることが出来ない。」ということに気づいている。
これは非常に危険な状態だ。このような会社では、社員の定着率も低いだろう。
これを打開するには、社長が全ての社員とは言わないが、せめて中間管理職レベルのスタッフと、活発にコミュニケーションを取ることである。たまには、ローカルマネジャー抜きでの懇談会などもいいだろう。このとき、「俺のいないところで、あいつら何をしゃべったんだろう」とローカルマネジャーは気になって仕方が無い。これが良い緊張感だ。
いつかこのメルマガで書いた、「部下に上司を評価させよう」なども良いだろう。

「君がいなくては私はどうにもならない。どうしても会社にいてほしい」という状態にしないこと

自分が絶対的に会社に必要だということに本人が気づくと、非常に厄介である。
これはローカルマネジャーに対してのみではなく、全てのスタッフについてい
えることだが、「あなたに辞められては確かに困るが、我々はすぐになんとか
できる。替わりも見つかるだろうし、下の者を教育すれば大丈夫」くらいの態
度を保つことだ。
ある業務に関して、「その人物しかしらない」「その人物にしかできない」というような状態になっていることに気づいたら、早めに補佐をつけて体制を整えなくてはならない。コンピューターのメンテナンス関係、特殊な経理プログラムの操作など、たった一人に任せきりだという会社は多いのではないだろうか。(事実、うちの会社でもいくつか思い当たる。)
通常、この「任せられたスタッフ」はその知識経験を、他のスタッフに開示することを嫌う。自分の存在価値を維持したいからだ。
以前、隣の会社で日本語ぺらぺらのローカルマネジャーが日本のある会社から引き抜きをくらい、それを引き止めるために現金で100万円支払った、ということがあった。
引き止められたほうは、日本での夢を奪われ、引き止めたほうは「貴方がいないと困ります」ということを宣言し、しかも人と人が現金でつながってしまったという、双方にとって最悪の結果になってしまった。
現在では、日本人の経営が替わり、その100万円で引き止めたマネジャーの使い道に苦慮しているそうだ。
もしこのような有能な人物が引き抜かれるという事態になったときは、「そうか、おめでとう。君がいなくなると大変だが、なんとか頑張るよ。」と、すらすら言えるように、日ごろのバックアップ体制作りが重要になる。
決して、金で交渉しようとしたりしてはいけない。

ローカルマネジャーに「判断させること」と「意見をきく」ことを混同しないこと

最終判断はあくまで社長である日本人だ。
その判断の前に、ローカルマネジャーに必ず意見を聞くことは重要だ。現地の習慣、メンタリティ、法律など、普通、日本人には分からないことが多くあるからだ。そうすれば本人も経営に参画することができるので、気分もいい。
ただし、「判断させること」と「意見をきく」ことを混同しないことだ。どこまで判断させるかは、十分に吟味する。

●こういった、絶妙の間合いは、慣れないと非常に難しいかもしれない。
しかし、数十人、数百人のスタッフは全員、社長のやり方をじっと観察している。船が沈むか沈まないかは、キャプテン次第だから気になるわけだ。